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Layered Little Press #Journal(旧Neo Culture)

小さすぎる出版社Layered Little Press(旧Neo Culture)

Fucts in Blanks-パスタ対談ー

レシピ本の三作目「北インドの食卓」が12/6に発売されました!

 

今回は「ナウなインド料理」ということで、「インド人も別に一日三食毎日カレーばっかり食べているわけではないですからね。」ということがテーマの根本にあります。

都市部や観光地が中心、ということにはなりますが、現代インド人はインド料理だけでなく外国籍料理もたくさん楽しんでいます。

そういうと驚かれますが、現代日本人が一日三食毎日和食ばっかり食べてないのと全く同じことですね。

 

僕のインド料理の師匠(インド在住インド人)もパスタが好きだったみたいですし。

"Do you like pasta?"

"Yes, I like Pasta."

 

「ところではてさて美味しいパスタとは?」

レシピ本を書きながらふとそう思ったところが今回の記事のスタートであります。

 

"インド"ではパスタはこう茹でる、とか

日本人の好みは、とか

 

そういう話ではなく、イタリアを発祥とするこの麺料理は一体どうすることで美味しく食べられるようになるのか、という根本的なところです。

 

もちろん僕は知らないので、プロに聞いてみました。

 

今回ご登場いただくのは、

明ケ戸慎平氏(Bar U'Jadde青山オーナーシェフ・パスタ職人)

星野大志シェフ(仏・伊・印 トリプルメジャーのスペックお化け)

のお二方です。

 

ではトピック毎に三者の対談をお届けします。

毎度毎度そうなのですが、専門家に聞くと色んなことがわかって楽しいんですよね。

 

【茹で汁の塩】

パスタを茹でるときにお湯に入れる塩についてです。塩はお湯に対してどれくらいが適正なのか、使う塩はどんな塩が良いのか。

 

「これ、塩について書かれた本です。なかなか面白いですよ。」

「でもさ、塩して茹でた方が普通に麺だけ食べても美味しいよね。俺は結構入れる方だと思う。そして茹で時間は比較的長め。(日本人からすると)」

「なぜ塩を入れるのかっていうと【風味】ですよね。あと、俺はソースとの【繋ぎ】とも思ってますね。塩がないと絡み方が違うというか味が乗らないというか。

ちなみに塩を入れると沸点が上がるとか、早く茹だるとか、そういうことを言っている人がいますが、ここにある通り、そういった効果はほぼ期待できず、タイマーを押すタイミングとかそういった誤差で完全に相殺されます。」

「確かに塩は下味ですが、風味が増すっていう視点はなかったです。インド料理も中華料理もそもそも香りのあるものを下味として使いますから。

ちなみにお二人はパスタの茹で汁は塩分濃度何%程度ですか???」

「1%程度ですかね。」

「俺は1-1.2%くらいっすかね?昔は水の量と塩の量計ってやってました。ただ、薄い塩で茹でたパスタだとマジでうまくないっす。その足りない塩をソースに足しても同じ仕上がりには絶対ならないっすね。パスタにしっかり塩味がないとペペロンチーノもまったくうまくならないっす。」

「確かにソースに塩を足してもゴールは一緒にはならないですね。結局、パスタの芯まで塩味が行かないからでしょうね。」

「なんか1-3%みたいな話を聞いたことがあるんですが、3%だと濃いいっすか?」

「濃いですね。ほぼ海水ですからね。ただ○○さんなんかは3%らしいですが。でも基本は1%かと、そもそも3%も入れたら塩がもったいないレベル(笑)」

「確かにほぼ海水ですね。じゃあ3%は意味不明ですか?あと塩がもったいない以外の弊害ってありそうですか?」

「いや、意味不明とは言わないです。それに合わせた作り方はあるのかなあと。3%でやる方々は、パスタが茹で上がってソースに絡ませたらそこに塩を加えて味を調えたりせずに盛り付けます。つまり、3%だから出来上がったソースに合わせるだけで完成なのかと。

ただ僕の信ずるやり方ではないですが。」

「なるほど、合わせたら完成って逆に難しそうですね。」

「あと、僕は南イタリアベースなので、アンチョビとかをソースに多用するので、茹でる塩は少し抑え目でいたいですね。」

「なるほど、それもまた興味深いですね。でもそれって逆に言うと茹で汁の塩分濃度は1%もあれば十分っていうことでもありますよね。

日本米炊いて白米で食べるときは基本的には塩なんてしないのに、パスタは塩が必要ってなんか不思議ですね。」

「後は茹で汁をソースの差し水に使うやり方だと、塩分濃度が3%あると塩っ辛くなりがちですよね。」

「難しいとこですね。俺は茹で汁とブロードをその都度使い分けてますね。」

「ちなみに茹での塩はなに使ってますか?」

「SALE MARINO MOTHIA integrale GROSSOです。」

「ああ、その塩好きです。」

グロッソ(粗め)を茹で汁に、フィーノ(細かめ)を料理用の塩にしてます。」

「生成塩とか岩塩みたいなナトリウム主体のやつって塩味が前面にでてきますよね。」

「角が立つんですよね。」

「粗目はパスタ湯用でよう見ますが、なぜ粗めなんですか?」

「料理に細かい塩を使う理由は大志さんから教えていただいたんですが。ゆうても僕カレーばっかりだったもので、結構粗い塩も普通に料理に使っていた時期もありまして。なじみやすさより得られる旨味を優先していましたね。」

「なぜパスタ湯で粗目なのかっていうのは、実は俺もよくわかってないです(笑)昔kらどこも岩塩だったので。おそらくは同じ量でも粗めの方が少ない量で塩味付くからかなあと。」

「なるほど。」

「ただこれは持論なので、突き詰めて考えたことはないです。」

「僕は焼き物にフレークソルト使っていた時期もあって、確かに粗い方が少ない量で味が付きそうですね。」

 

 

【茹でるときの温度】

 茹でるときの温度というか温度感。

 

「同じ沸騰状態でもぐつぐつとかぽこぽことかいろいろあると思うのですが、どんな感じで茹でてますか?

「必ず沸騰状態。ただし、ぐつぐつ泡が出ているのはだめ。軽く泡が出てる状態をキープします。ぐつぐつ過ぎるとパスタの表面上の凹凸がとれてしまいソースと絡まなくなるんです。」

「パスタの凹凸がとれる!?」

「俺もポコポコくらいになるように茹でてます。」

「いやー、マジで勉強になります。」

「少しいいパスタなら触ればわかるくらい凹凸ありますよ。」

「あ、そういえば大志さんのところのパスタも少しざらざらしたやつがありましたね。」

「それです。」

「特にディチェコのいいやつはやばいっすよ。」

「なるほど。触ってみたいですね。」

「俺はディチェコ派、バリラはそんなに好きじゃないっす。ちなみにうちはテフロンタイプとブロンズタイプ両方ありますよ。」

「ディチェコバリラが二大巨頭なんでしょうか。テフロンとかブロンズって何ですか?」

「テフロンがつるつるのやつっす。舌触りはいいけどソースが絡みづらい感じです。ざらざらのがブロンズタイプって言ってソースが絡みやすいんですよね。」

「なるほど!!そんなことすら知りませんでした!!!!!その辺って手打ちパスタだとどうなっていますか???」

「手打ちパスタは表面の凹凸は基本無いと考えていいですね。ただし、絞り出し系の生パスタはかなり凹凸あります。ビゴリの凹凸は最強。ちなみに俺はバリラ派ですが、ディチェコは5種類くらい使い分けてます。」

「ビゴリ、、、知らん言葉がいっぱい出てきますね。。。」

「ちなみにバリラとディチェコは大手なだけで数え切れないほどパスタのメーカーあります!」

「パスタによって舌触りとソースの絡み方に差があるんですね。やばいっすね。」

「クルヴィータも大手ですな。ここのブカティーニが好きです。」

「あ、俺も好き。クルヴィータってコラヴィータ?」

「コラヴィータでした(笑)」

「そして手打ちパスタは表面の凹凸無しと。。。作り手の裁量次第で無限の可能性が生まれる世界、たまりませんなあ。カレー作りより余程奥深いです。」

「コラヴィータいいよね!ブカティーニは食べたことないけど、スパは結構好き。俺からしたらカレーもかなり奥深いけどねwおかげでずぶずぶはまってますけどw」

「コラヴィータブカティーニ、もはや呪文ですね。」

復活の呪文(笑)ブカティーニが一般のより細目で絡みやすいんですよ。」

「あ、ブカティーニ思い出しました、あれですよね。穴あき。」

「ですです。アマトリチャーナシチリアのイワシとフェンネルのパスタと言えばブカティーニ。」

「面白すぎです。インド料理は主食とおかずは足し算の関係であることがほとんどなのに。」

「ソースを絡ませるのか、乗せるのか、で使い分けですよね。」

「パスタは掛け算にならんとダメっていう感じですね。イタリア人の食への貪欲さがうかがい知れます。」

「正解ってないですけどね。」

「まあそれを言えばカレーもそうですが。」

 

 

【アルデンテ】

日本ではアルデンテが良しとされるパスタ。しかし本場では…???

 

「日本人の話だけ聞いても、

アルデンテが好きなのは日本人だけ、とか、

現地で修行して来た知り合いが出したイタリアン食べに行ったけどすげえアルデンテでむしろ固かったわ、とか、

割りと話がまとまりないんですよねw

そこら辺どうですか?」

「日本人は無駄にこだわり過ぎですね。僕はイタリアで芯を残して(いわゆるアルデンテ)出したらクレーム来たこともありましたね。

そもそも昔はスパゲッティを10分以上くたくたに茹でて壁に投げつけて、壁にペタッと張り付くまで茹でていた、って言われてますし。

でも僕らの商売相手は日本人なのでアルデンテは気にしますが。」

「俺もアルデンテあんまり好きじゃないっす。パスタにある程度の食感は合ってもいいと思うけど過剰に硬い(芯のある)のはよくないと思う。」

「僕もヨーロッパ周ったときにイタリア人、フランス人、ドイツ人の友達んち行ったらパスタ作ってくれたんですけど、アルデンテじゃなかったですね。ヴェネツィアで食べた大衆食堂のナポリタンみたいなパスタもソフト麺化してましたしw

アルデンテでクレームですかw」

「でも僕は基本アルデンテより緩めですね。特に少し酔っている方、疲れてる方、お子様連れには気持ちやわらかめに作ります。なので、基本ランチはアルデンテ、夜はゆるめです。」

「おお、気遣い!

でもアルデンテってイタリア語ですよね???

現地では特に重要視されてもいないのに名称だけはあるんですか???

あとCottura 8 minutiみたいなイタリア製のイタリア語表記の茹で時間はアルデンテになりますか???それとも普通ですか???」

「アルデンテ

al dente

al 前置詞で~味とか~風とか

denteは歯

なので、要は歯ごたえですね。パスタ以外にも使いますよ。

例えば煮込みで歯ごたえを残すか、無くすかとか。

表記通りの茹で時間だとアルデンテにはならないですね。」

「そうなんですね!煮込みにも!

肉の焼き加減でレアとかどうとかみたいに、パスタ茹でにおいての専門用語化と勝手に思ってましたw

アルデンテにならないっていうのは時間通り茹でるとアルデンテ通り越すってことですか?」

「例えばですが、砂肝

砂肝焼くとしゃりしゃりするじゃないですか?

あれを煮込みにしたときにそのしゃりしゃり感を残すか、なくすか。

軽く残すならun'po di al dente(少しの歯ごたえ)とか伝えますね。

あと表記時間通りの茹でならアルデンテ越しますね。

だから大体のレシピって表記より1-2分早めにあげましょう、って書いてありますね。でも胃に悪いですよw

まあでもバリカタな文化ですからね、日本は。」

「だよね~だから全然話違うかもだけどラーメン食べるときもバリカタしないで普通かやわにしてもらう!食感ほしいならモリーカみたいなカリカリパン粉とかの方が絶対にいいと思う!」

「博多ラーメンはバリカタですよ!!!!!!w

でもバリカタなんて食べるのも西日本と九州だけじゃないですか???そばとうどんはちゃんと芯まで茹でますけど。

アルデンテの話も1-2分早くあげましょうってレシピに書くのは日本人ですか???」

「ですです。」

「なるほど。

ちなみに、unpo di al denteのようなやり取りがあるっていうことは、歯ごたえに関してはイタリア人結構うるさいんですか?

日本では料理作るとき、食感に言及することって少ないと思うんですよね。割烹とかは知りませんが。

でも、煮崩さないとかはあっても、食感そのものを指定することってあんまりないと思うんです。」

「いえ、イタリア人気にしてないですねw」

「w

イタリア人!!」

「とりあえずくたくたにしますね。

でもそれがうまい。色より味ですね。

日本は味より色ですが。」

「インドも煮込み、炒め物はくたくた派です。パンや揚げ物はクリスピーですが。

パンと揚げ物のクリスピーにはうるさいですよ。チャパティ以外。」

「商売相手がだれかって話でもありますがね。

でも日本人ってアルデンテは好きですが、手打ちパスタや生パスタも好きでそっちの方が価値が高いじゃないですかw

どっちなんですかね?w」

「確かに!!!!!!!」

「分かる!」

「日本でよくあるダブルスタンダードですね!w」

「乾麺には乾麺の良さ。手打ちパスタには手打ちパスタの良さがあって、それぞれにあったソースがあるということが理解してもらえたら嬉しいですね。」

「どっちがいいとか決めたがっても、損しちゃいますね。」

「ですです。」

「俺はいわゆる生パスタって言われるやつのもっちり感が好きじゃなかったんだけど、そこで出会ったのが開化楼のトンナレッリなんですよー!」

「なるほど。俺はどちらも好きですけどね。

でも乾麺のリスペクトは半端ないです。乾麺あっての生パスタだと思ってますね。」

「俺も乾麺大好きや!」

「乾麺あっての生パスタっていい発想ですね。

でもパスタがまず乾麺ありきとして、それは保存のために乾燥させたってことなんですか?

順番的にはまず生があってそれをわざわざ乾燥させてまた茹でるってことですもんね?」

「ですです。

ちなみにですが、パスタ=食事で使う麺というのも実は間違いです。

クッキーやタルトもパスタなんです。

小麦を使って固めたものは全部パスタなんですよね。向こうでパスティッチェリアと言えばケーキ屋ですし。」

「えええええ!!??

と思いましたが、中国では餃子もワンタンも麺料理ですから、似たような発想でしょうか。」

「そうでしょうね。」

「インドでは麺がそもそも少ない&米粉麺があったりするので、他の主食やお菓子とは分けて考えられてますが。

ではキッシュはどう分類されますか?」

「キッシュはフランスですが、イタリアでいうならパスタですよ。

ああいう生地をパスタフローラっていうんですよ。だからパンもパスタの一種ですよね、イタリアンからすると。

だからパスタソースをパンで食べるのはスパゲッティに絡めて食べるのと一緒。」

「あ、パンってパスタと同列なんですねw

あと、アルデンテだとパスタがソースの水気を吸ってしまいぽてっとなってしまう、みたいなのってありますか?

特にペペロンチーノはじめ、オイル系はそのあたり結構大変そうですが。

自分で2人前とか作るとすぐ水気が不足します。それをアルデンテでやった日にはお客さんのところに届くころには油しか残ってないパスタになってそうですな、と今改めて思いました。」

「そこは技術ですよね。僕はそもそも乳化を信じ切っていないので、基本しゃばめに作ります。お酒を飲みながらのお店ですし、うち。」

「乳化を信じ切っていない、というのはまたどういう意味ですか???

乳化させましょうってオイル系のパスタのレシピには書いてあること多いと思いますが、それも乳化神話ですか?

乳化したと信じ切っているだけ、とか別に一瞬で分離するし最初だけ乳化させる意味とかないし、とかそんな感じでしょうか?」

「出来上がりの瞬間に乳化をさせても意味がないってことです。

テーブルに届く時には時間が経ちますし、喋ってたらどんどん分離します。つまり出来上がりに乳化させるのが正義ではないのかなあと。」

「なるほど、ではそれをどうにかすることってできるんですかねー???

もしくは分離しても美味しいバランスを探すとか、ですか?」

「そこは僕の美学っすね。時間が経ってから完成する、的な。

乳化が完璧でなくても美味しく、、、うまく文章にはできないですけど。。。」

「俺も乳化させた方が美味しいものもあると思うけど、自分が味見するときに完璧でも盛り付けてお客様のところに届くまでにもパスタは水分を吸っていくからだいぶ状態は変わるよね。賄いでかなりしゃばめに作っても食べ終わりは油の方が多かったりするんだから。

寿司みたいに目の前で作って渡されてすぐに食べきれる量なら完璧なパスタとして出せるかもしれないけど。」

「ですね。出来上がりに完璧を求めるのは店としてパスタを提供するにはNGですね。できてすぐ自分で食べるなら別ですが。」

「俺は宴会とかもやってたから、その時は特に、冷めても美味しく食べられる味付けや仕上がりをよく考えてたなあ。食品サンプルのパスタみたいに全部くっついちゃうような事のないようにするにはどうしたらいいかとか。」

「わかる。」

「うちの実家では昼にスパゲッティ・アッラ・ポモドーロを多めに作って、残った分を夜のコントルノにしたりしてた!それはそれでうまいしね!」

「グラタンにしても美味いっすね。ってか、オシャレな家庭w」

「今考えるとオシャレな家庭だなw

あ、シチリア料理でインボルティーニ・ディ・メランザーネってナスにポモドーロパスタ包んでグラタンみたいにして焼く料理あるんだけどおいしそうだった!」

「ああ、めっちゃ家庭料理ですけどうまいっすね。」

「しかし、出来上がりに完璧を求めるのはNGっていうのは全然考えたことなかったです。インドは作り置きも多いですし、そんなもんだとw」

 

 

御二方!

パスタ談義どうもありがとうございました!!!