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Layered Little Press #Journal(旧Neo Culture)

小さすぎる出版社Layered Little Press(旧Neo Culture)

新刊「インド料理習得の新定番理論-インド東海岸線理論」刊行に寄せて

といいつつも最近書き始めたところですので、刊行は来年末くらいになりそうです。

最近は鰤子がブログを書き、AさんBさんも加わり、私はすっかり存在が蒸発してしまっておりましたが、それでも細々と本を書き続けておりました。

 

それはそうと、来年2023年は刊行ラッシュとなりそうです。今現在関わっている同人誌プロジェクト(!!)、ではないですが本の企画が来年色々と発売になります。全て出版コードはありませんので今までと同じ、今風に言えばZINEの携帯での刊行になります。おそらく過去最多ペースの刊行になりますので、皆様どうぞ引き続きお付き合いくださればと思います。

 

さて、今回記事を書こうと思ったのは、新刊「インド料理習得の新定番理論-インド東海岸線理論」の執筆中に明らかになったちょっと面白いことを自分なりにまとめて考察してこうと思ったからです。インド料理はまだまだ未知のことがたくさんあって面白いですよね。

 

○青菜のクミン炒めが北インドに実はなかった。

 事情通の方からするとむしろなんで青菜のクミン炒めが北インド料理やと思うとったんやと突っ込まれそうですが、これには私のインド料理バックグラウンドが関係していました。今まで5店舗ほど北インド料理を出すお店に関わってきましたが、そこで関わってきたお店のシェフは大半が東インドの方々でした。後はウッタラカンド、ヒマーチャル・プラデーシュ、それとネパールでした。

 

○青菜のジーラフライ

 彼らは青菜のクミン炒めのことをジーラフライと呼んでいました。やはり一貫して凄くシンプルな料理で、青菜をクミンシードとニンニク、鷹の爪で炒めて塩で味付け、異常!大体皆さんこんな感じで、ターリの付け合せにちょっと用意したり、賄でおかずの1品にしたりと、時期によっては割と頻繁に見る料理でした。私が初めて青菜のジーラフライを取り上げたのは、私が初めて作ったレシピ本「北インドおうちカレー 上」 でした。実はその時から疑問だったのですが、このジーラフライのヒンディー語がどうしても分からなかったのです。分からなかった、というのはジーラフライのジーラはヒンディー語でクミンのことなのはもちろんですが、フライは炒めるという英語なので、なぜそこだけ英語だったのかがまず分からず、かと言ってヒンディー語ではなんと言っていいかも分からず、それらしいヒンディー語を当てて調べてみても明らかに違う料理しか出てこないので、これは一体どういうことかと長年の疑問ではあったわけでした。ちなみに私が知っているヒンディー語の単語の中でフライの意味に近そうなのはbhaji(bajji, bhaja`など)でしたが、例えばSaag Bhajaを考えてみても、インド料理的に名前から青菜のクミン炒めとは限定できませんし、もし私がSaag Bhajaを作ってくれとインド人から言われたとしたときには絶対クミン炒めにせず、炒めた後にしっかり煮るという自信があったので、この結果にはまあ納得でした。ちなみにBhajiには野菜を食べれる状態にするという意味合いがありますが、つまり食べれるようにできれば炒めでも何でも良いです。しかし炒めっぱなしで野菜を食べるということが北インドではあまりないのです。

 

○ネパール料理だった

 結果どれだけ北インドの料理を調べても、ジーラフライはないようでした。現地にあるかないかは別として、ヒンディー語でジーラフライが言えないというか、それに的確に言うことができる単語がないようなのでしょうがありません。しかしそう、ネパール料理にはブテコという料理があります。これはかなり幅広い料理で、スパイスを使った炒め物のような料理ですが、かなり幅広い食材がブテコとして調理され食べられます。そしてその中に青菜の炒めものSaag Bhutekoがあります。ネパールにおいてはクミンとニンニク、赤唐辛子で炒めて塩で味付けするのが人気なようですが、レシピは千差万別とのことです。ネパールの地理と、ブテコが炒めものであるということを考えるとこれはチベットや中国の文化圏に属する料理かもしれません。そして幸か不幸か私が今まで接してきたシェフたちがブテコの国のネパール人やその周辺地域の人達ばかりでみんなブテコを知っていて、しかしヒンディー語ではそれが言えないのでみんなジーラフライと言っていたようなのです。

 

○しかし東インド(西ベンガル、オリッサ)にはある

 それもSago Bhajaという名前でオリッサにはあります。クミンを使うかどうか、ニンニクを使うかどうかは人によるところでしょうが、とにかく青菜の油炒めがオリッサにはあります。北インドではSaag Bhajaの名前で青菜のクミン炒めは存在していませんでしたが、何故かオリッサにはこの名前で定着しています。私はオリッサには詳しくないのですが、もしかしたらクミンを余り使うこともなく、しかもフライという英語の名前も土地柄なじまなかったのかもしれません。そうなるとやっぱり当てられる単語で最も意味が噛み合うのがBhaji(オリッサの言葉でBhaja)ということなんでしょうか。これは推測の域を出ていませんが。ちなみに西ベンガルにおいてはSaag Fry、Saag、Saag Bhajaの3種類の呼び方が用いられているようです。

 

○ちなみにタミル・ナードゥには似たような料理がある

 現地では人気のある料理では無いようで、田舎臭い料理と思われているようです。街なかのミールス屋さんでは私は見つけられなかったのですが、田舎に行くと一発で出会えました。現地ではアクの少ないほうれん草のような青菜を粗みじん切りにしたニンニクと一緒に炒め、塩で味付けしただけの、もはやお浸しのようなシンプル極まりない料理でした。ちなみに現地ではこの料理はKeerai Poryal(キーラ・ポリヤル)と呼ばれています。ポリヤルとはサブジのような料理の総称で、素材を香味野菜とスパイスと一緒に炒めた後に少しの水を加えて蒸し焼きにすることが多いですが、素材の水分が多い場合は水が加えられない場合もありますし、柔らかい食材の場合は炒めっぱなしにすることもあります。ただこの青菜のポリヤルは他のポリヤルと比較しても格段にシンプルなのが面白いところです。

 

○しかしやはり北インドにはない

 のです。北インドの中でもネパールに隣接しているビハールにはあるようですが、それ以外の州にはないようです。ない、というとないとは言い切れないと言われそうですが、いくらカオスなインドでもないものはないです。ただし物理的に本当に存在しないかというと話は別で、ビハール以外の北インドの州にもあるかもしれません。むしろあるかないかと言うとあるでしょう。それはなぜかというと、インドの中でも色んな人が地域のいろんな人たちが行ったり来たりしているので、青菜炒めがある地域の人が北インドのどこかの州にいればその州には青菜炒めは存在することになります。しかしここで大事なのは、「その地域の言語を話す人達が伝統的に作るかどうか」です。つまり北インド各州の言語を生まれつき話す地元の人達がその地域で作らないのであれば、その地域にはその料理はないのと同義と私は考えます。(しかし東インドにはある)

 

○それでもウッタラカンドのシェフには通じる

 隣り合った地域の料理は知っているけど作らないし食べない、という現象は日本でもあちこちで見られます。隣のあの地域のあの料理がどんだけ美味しかろうが、その隣の地域では見向きもされないというのはよくあることです。美味しいのにもったいないと客観的には思うところですが、不思議なことにそうはなっていないケースが国内だけでも相当たくさんあります。ウッタラカンドはネパールに隣接していますので、ウッタラカンドのシェフはジーラフライがどんな料理か知っていたのでしょう。しかしビハールと違ってジーラフライはウッタラカンドには根付いていないようです。国境付近ではどうなっているのか分かりませんが、しかし絶対どこかで線が引かれ、隣の地域で有名なグルメも全く食べられなくなるその境目が存在しています。大方のウッタラカンドはその境界線の外に位置するということでしょう。

 

○まとめ

 といいつつも、この記事はなにかを論じたかったわけでもなくまとめたかったわけでもなく、今までなんとなく疑問に思っていたことがふとした瞬間に繋がった気がしたので、忘れんようにまとめといたというただそれだけの記事でした。次はもうちょっと何かの役に立つ記事をかけたらいいなと説に思いました。