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小さすぎる出版社Layered Little Press(旧Neo Culture)

ガラムマサラを深掘りしてみた。Ⅱ-実践

Ⅰの記事ではガラムマサラとは何かということをざっと解説いたしました。このⅡの記事ではガラムマサラのレシピを2種類紹介しますので、実際に作ってみましょう。作ったガラムマサラは私の出しているレシピ本に載っている料理の仕上げに追加で使っていただくことでその効果を確認していただけます。

 ガラムマサラの作成の手順は全て一緒で、フライパンであまり色づけないように弱めの火でスパイスを乾煎りし、香ばしい香りを立てた後、お皿に移してから完全に冷ましてパウダーに挽きます。ガラムマサラの中にはスパイスを全て一緒に乾煎りするのではなく、別々に一つ一つを乾煎りしてから、冷まして全て一緒にしてパウダーに挽くという作り方をするものもありますが、インドでは少し特殊な作り方なので本コラムでは割愛いたします。作り方は写真を交えて、ひとつめのチキン向けのガラムマサラで解説します。

 

〇ひとつめ・・・チキン向け

 

<使用するスパイス>

カルダモン 8粒

クローブ 8粒

シナモン 3㎝×3本

スターアニス まるまる1粒

ブラックペッパー 大1

 

<手順> 

①フライパンに全てのスパイスを入れる。八角やシナモンなどの大きいスパイスは手で小さく割る。

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②フライパンを弱めの中火にかけ、木べらでスパイスを混ぜながら乾煎りして香りを立てる。人によっても加減が違うが、上の写真と下の写真とで色がほとんど違わないと感じる程度でも香りが立てばそれでOK。中にはもう少し色付ける人もいるが、茶色く色づく程に煎ることはガラムマサラ作りでは稀である。ちなみにこの量ならこれで乾煎り完了に必要な時間は2~3分程度。火が強すぎるとスパイスの芯まで熱が伝わる前に表面が焦げてくるので火は弱めを意識し、常に混ぜながらゆっくり全体を言っていくことがポイント。また熱の加減は、火を調整するのではなく、フライパンをガス台から上げ下げしつつフライパン全体の温度を均一に保つようにするとうまくいきやすい。また、乾煎り中に煙が立つが、煙が立つこと自体は悪くなく、あくまで注目するのはスパイスの表面が焦げないように、角に色づかないように注意するという点。

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③乾煎りが完了したスパイスはすぐにフライパンからおろし、皿の上で冷ます。冷めたらパウダーに挽く。
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乾煎りの段階で入りが深すぎるとパウダーにしたときに焦げ茶色に近い感じの色になる。もちろんそういうガラムマサラもあるが、常に深く煎るクセが付くと、他に多くある浅煎り系のミックススパイスが作れなくなってしまうので、まず浅煎りを習得すると良い。 

 

<特徴>

 華やかな香りのする配合のガラムマサラです。スターアニスは1/2粒でもいいですが、1粒思いきって入れていただければと思います。なぜ用途がチキンに限定されているのかと言うと、インドでは肉を食べる習慣のある人たちでも一番食べる肉がチキンなのです。ビーフはインドでは宗教上食べない人が多いですし、マトンは肉を食べるインド人たちの間でもけっこう好き嫌いがあるので、肉を食べる人でガラムマサラを手作りする場合はチキンだけ考慮に入れてガラムマサラを作る人も多くいます。今回はそんなノリのレシピです。このレシピをマトンに使っても別に悪くはありませんが、マトンまで考慮に入れる場合はメース細いさや3本分、ナツメグ1/4tsp、ブラックカルダモン2粒を補って少しワイルドな香りに近づけた方が、私個人的にはいいと思います。ナツメグは粗く潰すか、粗く削ったものを使います。

 

<適した料理>

・デラドゥン地方のホームスタイルチキンカレー-北インドのおうちカレー 上掲載

・パンジャブ地方のホームスタイルマトンカレー-北インドのおうちカレー 上掲載

・チキンタリワラ-北インドのおうちカレー 下掲載

・スパイシーキーマカレー-アジアに学ぶ大量調理のカレーレシピ 南アジア編掲載

・チキンマサラ-スパイスカレークックブック初級掲載

・ダムチキン-スパイスカレークックブック初級掲載

 

〇ふたつめ・・・ベジ料理向け

 

<使用するスパイス>

クミンシード  2/3tbsp

フェンネルシード 2/3tbsp

ブラックペッパー 2/3tbsp

クローブ 2/3tbsp

カルダモン 2/3tbsp

シナモン 5㎝×1本

 

<特徴>

 こちらのガラムマサラは軽やかで香ばしい香りを持ちます。クミンを中心とした香ばしい香りはジャガイモや大根を始めとする各野菜料理に相性ピッタリです。このレシピは肉を食べずに、豆と野菜の乳製品のみを食べるヒンドゥー教徒の家庭のガラムマサラをイメージしたものです。豆料理にはガラムマサラを使わないことも多いのでとりあえず野菜料理に合いやすいように配合されています。

 

 <手順>

ひとつめと同じ。

 

<適した料理>

・カボチャのタマリンドカレー-北インドのおうちカレー下巻掲載

・アルゴビ-アジアに学ぶ大量調理のカレーレシピ 南アジア編掲載

・ナブラタンコルマ-アジアに学ぶ大量調理のカレーレシピ 南アジア編掲載

・キノコのバターカレー-アジアに学ぶ大量調理のカレーレシピ 南アジア編掲載

・メティカボチャ-スパイスカレークックブック初級掲載

・里芋のカリサブジ-スパイスカレークックブック初級掲載

 

 また、インド人の紹介しているガラムマサラのレシピでは「伝統的なパンジャブ地方の配合です」とか「伝統的なジャイナ教徒の配合です」とか「伝統的なベンガル地方の配合です」といった感じで地方や宗教がわりと表に出されます。しかしそうは言われても遠すぎるインドの地、「確かに!これはあのパンジャブ料理の香り!」とはなかなか私たちはなりづらいと思いますので、このコラムでは地方や宗教というよりはそれを踏まえたうえで「どの料理に向きます」という表現をしています。

 

ぜひお試しくださいませ。

ガラムマサラを深堀りしてみた。Ⅲ-マニアック

-インドカレーと言えばガラムマサラ

 インドカレーと言えばガラムマサラという言葉が次いで連想される程にはガラムマサラと言うモノの名称は今の日本においてそこそこ知名度があるのではないかと、私は思っている。ガラムマサラとは複数種類のスパイスを混ぜ合わせたミックススパイスのことで、インドだけでなくパキスタン、ネパール、スリランカ、バングラデシュに同じ名前、もしくは違う名前の同じ性質のものが存在している。であるのでガラムマサラは北インド料理に使われるものという説明がされることもあるが、これは言葉だけを見てみればその通りとも言えてしまうものの、本質的に見ると例外が多くなりすぎてしまうためあまり正しい説明とは言い難い。

 

-ガラムマサラのバリエーション①

 ガラムマサラには様々なバリエーションが存在していると言われているが、一つ一つのガラムマサラをガラムマサラのバリエーションと捉えることは、ガラムマサラに正解や典型的なレシピがあるという印象を与えてしまう。ガラムマサラは伝統的なインド料理では料理ごとに調合され、作られていたと言われているが、その名残は古典的なインドの家庭料理で今も見ることができる。

 ガラムマサラが料理ごとに作られるというのはつまり、料理ごとにターメリックを除いた混合香辛料(チリとコリアンダーはレシピによって含まれる場合と含まれない場合がある)を作成し、それからカレー作りに取り組んでいたということである。ここで一つ、東インドの伝統的なベジタリアン料理「ジャガイモのバジ」を参考レシピとして紹介する。

参考レシピ

 こういった料理においては、ガラムマサラを作成することは調理工程の一つでしかない。まずするべきなのはホールスパイスを調理に適した形(パウダー)へと加工することであり、そしてホールスパイスが加工された形である粉状の混合香辛料がガラムマサラなのである。つまり少なくともこういった料理においてのガラムマサラとは、料理を行うときには必ず発生する手間でありモノであり、そこにはバリエーションと言えるようなミクロな視点はあまりないのである。また伝統的な北・東インドの料理では作成されたガラムマサラは大体マサラ作りのタイミングでターメリックと、もしチリパウダーがガラムマサラに含まれていない場合はチリパウダーも一緒に加えて炒めるようにして使用される場合が多く、南インドのものはチリは含まれているものが多い印象でそれにターメリックを補って使い、北・東インド同様にマサラ作りのタイミングで炒めるようにしても使う他、煮込みのタイミングで加えるようにして使用するレシピも多い。ガラムマサラのバリエーションは、一つ一つのレシピというよりもどちらかというと地域の差による使用法の違いなどで、マクロな視点からグルーピングすることによって見えてくる。

 

-ガラムマサラのバリエーション②

 次に現代のガラムマサラとその用法について見てみる。現代でのガラムマサラの一般的な使われ方は、「マサラ作りのタイミングでターメリックとチリパウダー等」の他のスパイスと一緒に炒めて使う、もしくは料理の仕上げに振りかけて一煮立ちさせ、香りを増強するの二通りである。ここで重要なのはコリアンダーの扱いである。前項での伝統的なレシピではターメリックはまず含まれないがチリは含まれる場合と含まれない場合があり、実はコリアンダーがより頻繁に含まれている。ところが現代のガラムマサラでは、ターメリックとチリ、それと必ずではないもののコリアンダーの2、3種類のスパイスが含まれないことになっている。これは何故かと言うと、この3つのうちチリ以外のターメリックとコリアンダーは仕上げに振りかけると美味しくないからである。チリは仕上げに加えるというよりは、完成した後に辛さを足したい人がピックルやチャトニー、グリーンチリ、フライドチリ等で自分で調整するというのが一応インドの辛さ調整文化であるため、ガラムマサラには一般的には料理の辛さを左右するチリを加えないという認識を持っているインド人が多くいるようである。というわけで現代ではマサラ作りに炒めで使う方法と、煮込みの最後に加える方法とを両立させられるガラムマサラが好まれているので、ターメリック、チリ、コリアンダーはガラムマサラには基本的には含まれないということになっている。

 

-ガラムマサラのバリエーション③

 またターメリックとチリ、コリアンダーをガラムマサラに含まないというのは日々の料理を作る上ではある意味合理的だったりする。インドの家庭料理にはターメリックとチリパウダーだけもしくはターメリックとチリパウダーとコリアンダーの3種類のみで作られる料理が多いからである。何も全ての料理でガラムマサラが必要なわけではないので、これらは常にパウダースパイスの形状で家に置いてあって、それを使った方が手間が少なくて済むということがある。特にチリはしっかりと粉になるまで挽くのが大変なので、チリパウダーがあれば後からそれを混ぜてしまった方が速い。それも石臼で引いていた昔であればなおさらである。

 ここでいったんガラムマサラの特徴をまとめておく。

 

伝統的なガラムマサラ-

ターメリックが含まれない。チリはモノによって含まれるものと含まれないものがある

コリアンダーは使用する場合はガラムマサラに含める。

 

現代のガラムマサラ-

料理の仕上げにも使用するためターメリック、チリ、コリアンダーが基本的には含まれない。

 

-疑問

 「あれ、では伝統的な料理では仕上げにガラムマサラを入れることはないのか?」という疑問が生じる。伝統的な「インド料理(北インドに限らない)」では仕上げにより使用されるのはパクチーの茎や葉っぱを刻んだものやカスリメティ、刻んだ青菜(これは東インドとバングラでよく見られる)が多く、タドゥカ(タルカ)したテンパリングオイル、時にはクミンパウダーや、クミンペッパーやカルダモンペッパーなどの2種類の混合スパイス、そして地域や料理によってレモン果汁、フレッシュトマトである。

 では仕上げのガラムマサラというのはどこから出て来たのかと言うと、割りと現代の家庭料理の知恵と、長年をかけて磨かれてきたレストラン料理の仕上げの技法であると思われる。しかし伝統的な料理でも仕上げの方にガラムマサラを加えるレシピは存在しているし、仕上げでなくても煮込みの途中でガラムマサラを加える料理も存在している。ここの辺りの線引きは容易ではないが、

・ただそう言った料理はパウダースパイスがかなりシンプルな配合である場合があり、仕上げのガラムマサラをもって料理が完成するという感覚であった可能性があり、現代の仕上げにガラムマサラを「補うような意味合いで」加えているのとは若干感覚が異なっていると思われる。

・ムガル料理やパンジャブ料理、アワド料理、ハイデラバード料理などの宮廷料理の影響をもろに受けている、もしくは強く受けている 料理の群に属している料理を作るような人たちは、宮廷料理やその影響の強いレストラン料理からの技術を家庭料理に取り入れており、比較的早くから仕上げのガラムマサラを行っていた可能性がある。

といった様々な背景が存在している可能性がある。

 

-家庭でのガラムマサラ

 現代ではいちいち料理の度にガラムマサラを作ることは少なくなってきた。そのため家庭には市販もしくは手作りの、汎用性の高いガラムマサラを1種類もしくは数種類常備しておくということが一般的になった。サブジに代表される、ガラムマサラをもともと使用しない料理には関係ない話だが、先に提示した参考レシピ「ジャガイモのバジ」の様なガラムマサラから作っていた料理は、ターメリック+チリパウダー+コリアンダーパウダー+クミンパウダーといった具合に既に挽かれているパウダースパイスを足していって作っても、やはりガラムマサラから作ったのと比べて味も香りももの足りないのである。そこで仕上げに汎用性の高いガラムマサラを仕上げに加えてそこを補おうという話になるのである。

 ちなみに現代においても仕上げにガラムマサラを加える習慣を持たないインド人はインド中に相当数いて、そういう人たちはマサラ作りの時に相変わらず(それが市販品であっても)ガラムマサラを加え、仕上げには相変わらずパクチーやカスリメティ、青菜などを使っている。そういった点からすると、タミル・ナードゥ地方のベジタリアン料理は、伝統的なヒンドゥー教徒の調理法が未だに色濃く残っているとされており大変興味深い。タミルのベジタリアン料理は今でも伝統的に<※1.ガラムマサラ(の様なもの)>を最初に作ってから調理を始める方法を取るものも多く、また料理のバリエーションも汁気の少ない料理が多く、汁気を持つものは極端なスープ状、ホールスパイスのみを使用しパウダースパイスを使用しない料理があったり、後はダルのような豆料理といった具合で仕上げにガラムマサラを加えるという方法が全体的にみても適さない料理が多いためか、未だに仕上げのガラムマサラというのは(全くないわけではないが)聞きなれない。

 

-余談

そしてそのためか現代ではガラムマサラは北インドのものというイメージが強くなっているのだと思われる。

 しかし※1.例えばタミル地方の代表的な伝統料理のラッサムやクートゥ、サンバルには、伝統的なレシピではそれぞれラッサムポディ、クートゥポディ、サンバルポディと呼ばれる専用のミックススパイスを作るところから始める。これらのポディ類の作成は北・東インドの伝統的なガラムマサラ作りとの明確な線引きをすることが困難であり、私は母語の違いによる名称の違いと、地域差程度の作り方の違いしかなく、両者は同種のものと考えている。ただガラムマサラはターメリックは必ず含まれないが、ポディ類は〇〇ポディと言った時にはターメリックまで含まれている場合(例えばラッサムポディはターメリックを含まないバリエーションを有する)があるので、ポディ類は北・東インドの伝統的なガラムマサラとカレーパウダー両者を包含するアイデアということになる。このアイデアの違い以外には、両者の違いは呼称と原料にダルが含まれるかどうか、使用するタイミング以外(ポディ類は煮込み時に直接入れることが多い)にはない。さらにはチキンコランブ等のノンベジ料理用にもホールスパイスからミックススパイスを作成することがあるが、それにはダルが入らないうえ、ターメリックも後から加えられるため、それがガラムマサラではないと証明することの方が難しい。しかしながら南インド独自のマサラで、例えばクートゥポディのバリエーションの一つとして、クミンシードやコリアンダーシードとダルを油でテンパリングした後に冷まして油ごとすり潰してペーストにするという作り方がある。これとガラムマサラとの関係はまだ分からないが、これは北インドには類似のものが存在していないのではないかと今のところ私は考えている。

 

-レストランでのガラムマサラ

 北インド系のインドのレストラン料理では、汎用性の高いメインとなるグレイビー、魚介用、野菜用、マトン用、コルマ用など複数の予め仕込んだグレイビーを組み合わせて一つ一つの料理を作る。そのためどのグレイビーもある程度の料理に派生させられるように全て汎用性が考慮されており、汎用性が高いために当たり障りのないスパイスの配合にされているものが多い。さらに全てのグレイビーは仕込み置きのため、時間の経過とともにさらにスパイス同士が馴染んで味も香りも丸くなってしまう。これは日本人の感覚で言えば熟成もしくはエイジングであるが、インド人はスパイスの味や香り、辛みは熟成をさせず常にフレッシュ感を求めるためエイジングを嫌う人が多い。そのためスパイスのフレッシュ感を出すためにガラムマサラを料理の仕上げに加えるのである。

 

-汎用性の高いガラムマサラ

 現代では汎用性の高いガラムマサラを予め仕込んで持っておくことが主流になっている。ではこの汎用性の高いガラムマサラとはなんなのかというと、様々なスパイスを当たり障りない配合で作った、何かの料理用に特化したものではないがどの料理に対してもある程度有効なガラムマサラということになる。スパイスの配合は全て人によったり地域によったりと言ったところであるが、大雑把にはベジ料理用とノンベジ料理用、野菜用と肉用と魚介用などと食材のカテゴリー毎に用意したり、後は肉を元々よく食べる過程であれば野菜料理はガラムマサラ無しで全て作って、肉料理は大体なんでも自分特製のガラムマサラ一本で済ますといった家庭があったりと本当に様々である。

 

-ガラムマサラが不要になるケース

 またインドではガラムマサラの代わりになるものがあるために、はなからガラムマサラを用いない料理も実はけっこうある。そのガラムマサラの代わりというのがホールガラムマサラと呼ばれるもので、主に北・東インドのノンベジ料理に見ることができる(ベジ料理や人によってはダルのバリエーションにも使用する)テクニックである。これは主にベイリーフ、シナモン、カルダモン、クローブ、ブラックカルダモン(人によってメース、ブラックペッパー、チリも加える)を合わせて乾煎りして、ひとまとめにしてストックしておくものである。ある程度まとめて作っておいて、必要な時に必要なスパイスを必要なだけつまんで出してテンパリングに使用する。クミンやシャヒジーラ、フェンネル等は必要に応じて後から加える。ホールガラムマサラを用いる料理はマサラ作りに使うスパイスがターメリック、チリパウダー、コリアンダーパウダー、クミンパウダー、カスリメティといった具合にガラムマサラを使うことなく作られるものが多くある。もちろん中には汎用性の高いガラムマサラをマサラ作りや仕上げに使うこともあるし、ホールガラムマサラを使いつつ専用の仕上げガラムマサラを作ったりする手の込んだ料理もあるが、逆にホールガラムマサラとターメリックとチリパウダーだけしか使わない料理も存在したりしているくらいに、このホールガラムマサラは威力がある。ただホールガラムマサラは北・東インドでも主に肉を食べる人たちが用いるもの(という印象)で、ベジタリアンの人たちはやはり伝統的にはその都度作るガラムマサラというイメージである。また特にホールガラムマサラとは呼ばれていない(気がする)が、南インドのノンベジ料理ではホールガラムマサラにクミンシード、フェンネルシードを補ったようなスパイスの配合を基本とした料理が存在しており、パキスタンやペルシャ、パンジャブの料理をベースに発展させたムガル料理を基礎としているハイデラバード料理や、北からやって来たイスラム教徒のノンベジ料理の影響を伺わせる。

 

-ところが

 ここで話がまとまるのかと思いきや、ややこしい話はまだまだある。さすがインド、多様性の国、カオスの国と思う。

 ガラムマサラというのはヒンディー語であるが、ガラムマサラという言葉の意味を考えなさいという人たちがいるのである。私はガラムはHOTでマサラはBLENDED SPICEの意味ですよと、料理を教わったインド人から説明を受けていた。逆に言うとそんな説明しか私は受けて来なかったわけで、それ以上にガラムマサラの単語の意味を深く考察したことはなかったわけだったのだが、マサラの部分はブレンドされたスパイスの意味でいいとして、問題はもう一つのHOTの部分だったのである。

 何がHOTでなぜHOTなのか。曰く、HOTというと意味が若干逸れるそうでイメージ的にはWORMINGということらしい。つまり「熱い」のではなく「温めてくれる」ということなのである。アーユルヴェーダの世界では温めるということと冷やさないということはとても大事だ。こと食べるにおいてそれは本当に大事なのである。ざっくりいうと、皆の胃の中には火の神様がいらっしゃって、その火の神様が皆が食べた食事をエネルギーに変えてくれるので、火の神様にエネルギーを与えて常に元気な状態でいてもらう必要がある。冷やすなんぞはもっての外、という考え方がアーユルヴェーダにある。つまりガラムマサラというのは味とか香りとかいうのもあるけど、体を温めるという薬効を得ることが真に大事なことだという話なのである。料理に使われているスパイスは限定的なので、多種多様なスパイスを配合して作った、体を温めてくれるミックススパイス「ガラムマサラ」を料理の仕上げに一振りして、皆の中の火の神様を元気にして消化を頑張ってもらい、皆が日々健康に過ごせるようにする。それがガラムマサラを使用する目的だったという少し壮大な話だ。確かに、随分前にやたらと厳しかったインド人のシェフから「ダイジェステフ!ダイジェスティフ!」とジェスチャー付きでガラムマサラの説明を受けた記憶が蘇ってきた。

 

-カッチとパッキ

 また、私が教わってきたインド料理においてのガラムマサラの用法には全く当てはまっていないが、こんな分類もあるということだ。ビリヤニに詳しい人ならすぐにピンとくるカッチとパッキ、これがガラムマサラにもあるという。カッチはUNCOOKEDの意味でパッキはCOOKEDの意味、つまりガラムマサラで調理済みとそうでないものの分類があるという話だ。

 ガラムマサラの作り方には二通りがある、乾煎りする方法と天日干しをして乾燥させる方法だ。乾煎りして作られるガラムマサラがパッキャ・ガラムマサラで天日干しで作られるガラムマサラがカッチャ・ガラムマサラである。私が習ったシェフも天日干しの作成方法については教えてくれていたが、なんにせよガラムマサラをほとんど全ての料理でマサラ作りの段階でターメリックとチリと一緒に炒めながら使う人たちばかりだったので、作り方によってこんな用法の差を見出すインド人がいることは知らなかった。

 具体的にカッチャとパッキャの違いであるが、カッチャは生なので私が教わったようにマサラ作りの段階で炒めて使わなければ味も香りも出てこない。そしてパッキャは加熱済みなので、逆にマサラ作りのタイミングで入れてしまうと加熱のし過ぎになってしまうため、必ず仕上げの段階で使うということだ。またこの区別をする人たちは、加熱済みなので問題ないということで「コリアンダー」もたくさんガラムマサラに入れてしまう。感覚的には北や東というよりもパンジャブ地方などの北西地域に多そうな考え方という気がするが、これは本当にもうちょっといろいろ聞いて回らないと今の私ではなんとも言えないところである。

 

-締め括り

 しかし、インドにはまだまだそんなもんじゃなく、深堀りし切れていないスパイスの使用方法が存在しているのである。例えば、乾煎りしたホールスパイスを粗挽きにして、それをテンパリングするというホールガラムマサラとガラムマサラのいいとこ取りをしているようなテクニックがある。これはガラムマサラなのだろうかホールガラムマサラなのだろうか。そこから考えてみればパンチポロンもよく分からない存在である。しかもパンチポロンをパウダーにして使うという話も聞いたことがあり、であればそれ自体はガラムマサラに分類できるであろうが、これもどれだけ調べてもよく分からない。南インドのホールスパイスとダルをテンパリングして油ごとペーストにするのも、作り手はガラムマサラ作りに近い感覚なのかどうなのか。

 深堀りすればするほど、その過程でまだまだ知らなかった興味深い話に遭遇し、ついには迷子になってしまうのがインド料理の世界だ。追加調査の結果は随時配信していく予定なので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 

書き忘れ-アジアに学ぶ大量調理のカレーレシピ

アジアに学ぶ大量調理のカレーレシピ内で見つかった説明不足、書き忘れを補うページです。書き忘れ!申し訳ございません!

 

①玉ねぎの切り方

本書ではところどころで「半分に割って6等分」という玉ねぎの切り方が出てきます。本書の重要コンテンツ、シャヒマサラとコルママサラの玉ねぎの切り方なので、なかなか重要な話でありますのに私としたことが図を書き忘れておりました。

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切り方の手順としては、皮を剥いて頭と尻尾を落とした玉ねぎを縦に半分に割り、横縦縦の順に切って図の様にします。

 

②コルママサラの材料欄の記号Ⓐ、Ⓑ、Ⓒの書き忘れ

玉ねぎから油までのカッコがⒶ、コリアンダーシードからクローブまでのカッコがⒷ、カシューナッツからココナッツミルクパウダーまでのカッコがⒸです。

 

③14p.ナブラタンコルマ

工程①で使う油の量の記述が抜けておりました。

100-200㏄の量を使用してください。また、この時点でギーを使用する人もいます。

 

④28p.ハイデラバード風エビコルマ

エビはマリネしてから使用するのですが、その記述が抜けておりました。

エビはバター以下、()で括られた材料でマリネをします。浸け時間は10-15分です。

海老、魚はマリネの時間が短く、まぶしたら漬けずにすぐ調理に取り掛かる人もいます。

 

まだ出てくるかもしれません。すみません!

Neo Cultureレシピ本事業大規模アップグレードのお知らせと詳細

〇レシピ本新時代

Neo Cultureはこれからの時代のレシピ本の新しい在り方として、レシピ本の新しい規格「ver2.0」を提唱いたします。 

レシピ本の最大の弱点である「一回書いたら修正効かん!更新できん!」という部分をウェブを使って補おうという発想です。新しい規格になる「ver2.0」の発想の下に作成される今後のレシピ本は「ver2.0対応」と表記されます。これに対してビリヤニの2割を除く既刊5冊(下記参照)に関しては、ウェブに繋がらないので「STAND-ALONE」と呼ぶことにします。(ビリヤニの2割に関しては、制作時この取り組みが構想段階だったために「ver2.0」対応とは明確に表記されていませんが、ぎりぎりver2.0に対応している内容になっています。)詳しくは以下をご覧ください。

・新しい規格「ver2.0」

ver2.0に対応するのは、既刊「ビリヤニの2割 冊子版/PDF版」と、2021年春に発売予定の新刊「南アジア人直伝 スパイスカレークックブック初級 Technics&Recipes 冊子版/PDF版」、さらに2021年2月中旬以降より順次発売予定の「北インドのおうちカレー上・下、北インドの食卓 PDF加筆修正版」とこれ以降に発売される全てのレシピ本です。

これらはNeo Cultureのウェブページやブログを通じて、レシピ本の内容を補強、拡張するコンテンツを随時配信していきます。コンテンツは本を購入いただいているかどうかに関わらずご利用いただけるオープンコンテンツと、本を購入いただいている方が利用いただけるクローズドコンテンツの2種類に分かれます。各コンテンツへのアクセスの方法は随時ご案内いたします。

またビリヤニの2割に関しては既に、

ビリヤニ カテゴリーの記事一覧 - Neo Culture #Journal

にてビリヤニ回顧録というコンテンツをブログにて公開しております。本編では事実の確認が取れなかったために掲載できなかった、ビリヤニに関する諸々の推察や推論を4つに分けて記事にしてあります。本編を読み終えた方は更なるビリヤニの謎に迫るため、お読みいただければさらにビリヤニの奥深さを味わうことができるのではないかと思っています。

・STAND-ALONE

既刊「インド人直伝 北インドのおうちカレー 上 冊子版」、「インド人直伝 北インドのおうちカレー 下 冊子版」、「北インドの食卓 冊子版」、「むしろ食べる専門の方にお勧めのレシピ本「南インド-タミルベジタリアン料理 ミールス解説読本」 PDF版」、「アジアに学ぶ大量調理のカレーレシピ 南アジア編 PDF版」の5冊まではこの構想の下に作成されていないため、本からウェブページやブログへのアクセスの紹介がありません。しかしその代わりとして、本の内容の更新や修正が必要な個所については既に

レシピ本拡張パッチ カテゴリーの記事一覧 - Neo Culture #Journal

にて記事として掲載しております。今後とも必要に応じてこちらの記事も追加していく予定です。

 

〇「ver2.0」になることによってできるようになること

レシピ本とウェブをつなげることで、簡単に言うと以下のようなことができるようになります。

・本の内容が間接的にアップデート可能に

レシピ本の内容で古くなった情報(その時の私では深堀できなかったお話や、実は間違って解釈していた事柄、その時は私が文章力が未熟で気づけなかった誤解を招きかねない書き方など)を間接的に修正していくことができ、レシピ本の内容に関連する最新の情報(時代の変化とともにみられるようになってきた潮流の変化など)や研究成果(新しく判明した現地人の用いる細かな調理技術など)を皆さんに届けられるようになります。さらにレシピにまつわるサイドストーリー、紙面上ではスペースの都合上割愛せざるを得なかった写真やレシピ等、ちょっと寄り道的な副次的コンテンツも制作、配信が可能になります。本に書かれている内容以上に現地の料理や食文化を余さずお届けすることが可能になります。一つの具体的な話としては「北インドのおうちカレー 下」でページ数の関係から取り上げることができなかった「ラダック料理」(そもそももともとインドではないんですが) の写真付きレシピコンテンツの配信を今後予定しています。ラダック料理と「北インドのおうちカレー 下」で一部紹介しているカシミール料理は隣り合った地域で似た料理も存在しているため、双方を学ぶことによって双方の理解が相乗的に深まります。このように、一冊の本を引き続き末永く楽しんでいただけるようになります。

・本の内容が難しいと感じる方向けの低難易度コンテンツの配信

上記のような寄り道コンテンツだけではなく、本の内容が難しいと感じる方向けに本の内容よりも更に優しい内容のコンテンツや、本の内容の詳細な解説ページの製作も予定しております。

・本の内容が簡単と感じる方向けの項難易度コンテンツの配信

また反対に、本の内容が簡単と感じる上級者の方々向けの高難易度コンテンツの配信も計画中です。

  

〇今後の新刊の発売と拡張コンテンツ配信の予定

新刊の発売スケジュールと拡張コンテンツの配信スケジュールのご案内です。拡張コンテンツについては、どなたでもご利用いただけるオープンコンテンツは(OPEN)、レシピ本をご購入いただいた方がご利用いただけるクローズドコンテンツは(CLOSED)と末尾に記載されています。

 

・新刊発売スケジュール↓

2月下旬

>インド人直伝 北インドのおうちカレー 上 加筆修正・PDF版

既刊の「インド人直伝 北インドのおうちカレー 上」のPDF版です。この本を最初に作ってからというもの、あっという間に今です。その間にいろいろなことが追加調査で明らかになり、またそれを字に起こす自分の日本語力も成長したので、この度「ver2.0」規格のスタートに伴いコラムの部分を一新しました。おまけとしてバターチキン(ナッツ・生クリーム不使用)のレシピを巻末に追加しています。

 

3月下旬

>インド人直伝 北インドのおうちカレー 下 加筆修正・PDF版

既刊の「インド人直伝 北インドのおうちカレー 下」のPDF版です。上巻と同様に「ver2.0」規格のためにコラムの部分を一新しました。おまけとしてダヒキーマのレシピを巻末に追加しています。

 

4月下旬

>北インドの食卓 加筆修正・PDF版

既刊の「北インドの食卓」のPDF版です。先の二巻同様に「ver2.0」規格のためにコラムの部分を一新しています。おまけとしてムルグカリミルチのレシピを巻末に追加しています。

 

5月下旬 

>南アジア人直伝 スパイスカレークックブック初級 Technics&Recipes 冊子版/PDF版

Neo Culture Recipe Books完全新作の一冊です。「ver2.0」対応なうえ、既刊「インド人直伝 北インドのおうちカレー 上 冊子版」、「インド人直伝 北インドのおうちカレー 下 冊子版」、「北インドの食卓 冊子版」、「むしろ食べる専門の方にお勧めのレシピ本「南インド-タミルベジタリアン料理 ミールス解説読本」 PDF版」を補足する内容になっています。さらにこの本の特色としては、各調理技術を独自のダイアグラムを用いて体系化し、どの順で南アジア料理のテクニックを習得していけば楽か、ということを難易度も含めて視覚化したことです。インド料理含め、南アジアの料理を習得したいけど、どうしたらいいか分からないという相談は長年受けてまいりましたが、それらへの一応の回答がまとまった形です。

 

 ・Ver2.0拡張コンテンツ配信スケジュール↓

4月下旬

>北インドのおうちカレー 上

・初級コンテンツ、レシピの更に詳細な解説(CLOSED)

 

5月下旬

>北インドのおうちカレー 下 PDF版

・初級コンテンツ、レシピの更に詳細な解説(CLOSED)

 

6月下旬

>北インドの食卓 PDF版

・初級コンテンツ、レシピの更に詳細な解説(CLOSED)

・カシミールティーなどの追加のドリンクレシピの配信(OPEN)

 

7月下旬以降順次

>南アジア人直伝 スパイスカレークックブック初級 Technics&Recipes 冊子版/PDF版

・中級コンテンツ(OPEN)

・上級コンテンツ(OPEN)

>北インドのおうちカレー 下 PDF版

・ラダック料理のレシピの配信(CLOSED)

・他、本編で掲載できなかった地域料理のレシピの配信(CLOSED)

 

 コロナにより時期未定

>ビリヤニの2割 冊子版/PDF版

・ビリヤニの2割5分(OPEN)

 

より詳細な情報に付きましては、準備が整い次第順次発表してまいります。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

〇レシピ本既刊のご案内〇

Neo Culture Recipe Books既刊のご案内です!

購入後希望の方は、

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までご連絡くださいませ。

また、ウェブページ Neo Culture[Bibliothek] https://www.horizon.boston

のページ下部にございます連絡フォームもご利用いただけます。

 

〇ビリヤニの専門書「ビリヤニの2割」 

冊子版 2500円(税込み)/PDF版 1500円(税込み)/冊子&PDF 3500円(税込み)106p.一部カラー 

ビリヤニを炊くためのノウハウとレシピを詰め込んだ一冊!

 

1章 ビリヤニ概論

ビリヤニの起源

ビリヤニの語源

ビリヤニとプラオの違い

ビリヤニの種類

バスマティライスの性質

付録-北インド人とビリヤニの距離感

 

2章 ビリヤニ総論

ビリヤニを炊くために

各ビリヤニに共通する要素の解説

ダムビリヤニに必要な要素の解説

プラオ式ビリヤニに必要な要素の解説

炒飯式ビリヤニに必要な要素の解説

炊き込み式ビリヤニに必要な要素の解説

 

3章 ビリヤニ各論

南アジア各地域のビリヤニ

中東の炊き込みご飯

東南アジアのビリヤニ

代表的なビリヤニの付け合わせ

付録-ロヒンギャと東南アジアのビリヤニ

 

4章 ビリヤニ特論

バスマティライスの吸水

ナツメグとメースの使用

仕込みサイズの変換①

仕込みサイズの変換②

ビリヤニマサラのレシピと使用

炊飯器レシピの水分量

炒飯レシピ

海鮮を使用するレシピ

 

<レシピ>

ムグライマトンビリヤニ Mughulai Mutton Biryani

アワディダムプクトビリヤニ Awadhi Dumpukht Biryani

カシミールチキンビリヤニ Kashimiri Chicken Biryani

チェティナードチキンビリヤニ Chettinadi Chicken Biryani

ビリンジ(ブリンジ) Birinji(Brinji)

マトンカッチビリヤニ Hyderabadi Mutton Kachchi Biryani

カリヤニビリヤニ Kalyani Biryani

ケララフィッシュカレー Meen Choru

タラッスリーエビビリヤニ Thalassery Prawn Biryani

ゴア風ビーフビリヤニ Goan Beef Biryani

カルナタカ風チキンビリヤニ Karnataka Style Chicken Biryani

ムンバイビリヤニ Bombay Biryani

コルカタビリヤニ Kolkata Mutton Biryani

バングラ風ビーフビリヤニ Bangladeshi Beef Biryani Village styele

パキスタンマトンビリヤニ Yakhni

パキスタンコルメービリヤニ Pakistani Qormey Biryani

ペルシャ風マトンビリヤニ Persian Mutton Biryani

カブサ Kabsa

ナスィ・ビリヤニ(マレーシア) Malaysian Nasi Biryani

ナスィ・ビリヤニ(インドネシア)Indonesian Nasi Biryani

カオモック・ガイ Khao mok gai

ロヒンギャビリヤニ Mutton Biryani, One Recipe from Rohingya  

ダンパウ Danbauk

白ビリヤニ 

チキンカッチビリヤニ Hyderabadi Chicken Kachchi Biryani

野菜ビリヤニ Vegeteble Biryani

マトンドムビリヤニ Bengali Mutton Dom Biryani

カオモック・ガイ(炊飯器レシピ・炒飯レシピ)

マスールビリヤニ Masoor Biryani

エビマクブース Prawn Machboos

 

〇アジアに学ぶ大量調理のカレーレシピ 南アジア編 PDF版 48p.フルカラー 1000円(税込み)

南アジア各国のカレー料理を30-40人前で仕込むためのレシピとノウハウをまとめた、飲食業に従事する方向けの一冊です。

 

<コラム>

大量調理レシピと家庭料理レシピの違い

大量調理の語さ

カレーの組み立て

骨付きマトンと骨付きビーフの下ごしらえ

ニンニクと生姜

パウダースパイスを加えるタイミング

<レシピ>

第一部 シャヒマサラを使った南アジアレストランスタイルのカレー

シャヒマサラのレシピ

チキンティッカマサラ/ムルグシャヒジャール

ポークドピアザ

アルゴビ

シャヒパニール

シャヒダール

ナブラタンコルマ

ビーフダル/マトンダル

マトンシャヒコルマ

なすマサラ

チャナマサラ

チェティナードフィッシュカレー

マドラスプロウン

 

第二部 コルママサラを使った南アジアレストランスタイルのカレー

コルママサラのレシピ

ミックス野菜コルマ

フィッシュコルマ

ビーフレザラ

マトンコルマ

パニールラズィーズ

エビコルマ

 

第三部 南アジアのカレー(マサラ不使用レシピ)

キノコのバターカレー    北インド風オリジナル ホームスタイル

しらすと白菜のジョル    バングラデシュ ヴィレッジスタイル

ぶりと大根のカレー     東インド ホームスタイル

砂ぎものトマトカレー    東インド風オリジナル ホームスタイル

パニールのタリワラ     北インドパンジャブ州 ホームスタイル

長芋の田舎風        東インド ヴィレッジスタイル

茄子のラサバンジー     南インドタミル・ナードゥ州 ホームスタイル

スパイシーキーマ      インドヒンドゥープレパレーション ホームスタイル

ビーフキーマ        ハイデラバード ダバスタイル

サランシャルガムゴシュト  パキスタン ホームスタイル

シャルガムゴシュト     パキスタン レストランスタイル

ゴルールマンショージョル  バングラデシュ ホームスタイル

カニのガッシ        マンガロール レストランスタイル

 

〇むしろ食べる専門の方にお勧めのレシピ本「南インド-タミル・ベジタリアン料理 ミールス解説読本」PDF版 30p.フルカラー 500円(税込)

タミル・ナードゥ州のベジタリアン料理を、「ミールスとは何か?」ということをテーマに徹底解説した一冊です。実は複数あるミールスのタイプを、現地で見つけたミールスを基にイチから攻略していきます。

ホンモノレシピはもちろん掲載してありますが、ミールス好きで食べる専門の方に読んで欲しい一冊です。

 

<内容>

豆の茹で方

米の炊き方

サンバルパウダー(Sambar Podi)

よくあるサンバル(Sambar)

トマトラッサム(Thakkali Rassam)

緑豆のマシヤル(Pasi Payaru Gram Masial)

大根のティーヤル(Mullangi Theeyal)

ほうれん草ポリヤル(Pasalai Keerai Poryal)

ポテトパリヤ(Poteto Palya)

なすびのバルバル(Katthirikai Varuval)

カボチャのラサバンジー(Parangikai Rasavangy)

青バナナのポリヤル(Plantin Poriyal)

オクラのパチャディ(Vendakkai Thair Pachadi)

ココナッツチャトニー(Thengai Chutney)

ビーツのニンニク胡椒炒め(Beetroot Milagu Varuval)

いんげんのクートゥ(Green Beans Kootu)

マサラワダ(Masala Vadai)

ミールスの食べ方

 

 

 

〇インド人直伝 北インドおうちカレー 上  

冊子版 24p.フルカラー 500円(税込み)

今まであまり語られてこなかった北インドの家庭料理に焦点を当てたシリーズの一冊目です。レシピの難易度はほとんどが初級者向けです。

 

<コラム>

・ホームスタイルvsレストランスタイル

・骨付き肉vs骨なし肉

・医食同源???

・インド人の主食とは???

・インド料理哲学~水とお湯~

・固形状のスパイス(解説)(チリ・シナモン・クミンシード・ブラウンマスタードシード・カスリメティ・ヒング)

・粉状のスパイス(解説)(ターメリック、カイエンペッパー、クミンパウダー、コリアンダーパウダー、ガラムマサラ)

 

<レシピ>

・シンプルチキンカレー

・ビーフマサラ

・ニハリ

・マトン・スープ

・レンズ豆のジョル

・アル・パラック

・青菜のジーラフライ

・ジーラライス

・マスタード・ヨーグルト・フィッシュ

・大阪心斎橋ミルチマサラのオーナーとシェフ直伝のこだわりおうちカレー

  ・デラドゥン地方のホームスタイルチキンカレー

  ・パンジャブ地方のホームスタイルマトンカレー

 

 

〇インド人直伝 北インドおうちカレー 下  

冊子版 24p.フルカラー 500円(税込み)

今まで本当に語られてこなかった北インドの地域料理に焦点を当てた一冊です。上巻に比べてレシピの難易度は上がり中級者向けの内容になっています。

<コラム>

・インドMAP

・北インドおうちカレーをより美味しくする!!インド人のニンニクと生姜の使い方

・北インドおうちカレーをよりインド味にする!!プチトマト論

・インドQ&A

・おふくろの味。

・おうちで簡単!インドの家庭に学ぶ 美味しいホウレン草チキンの極意

 

<レシピ>

・ラジマ(ヒマーチャル・プラデーシュ)

・ダル・マッカーニー(ヒマーチャル・プラデーシュ)

・ダル・マッカーニー(パンジャブ)

・ロビア豆のパクチーカレー(パンジャブ)

・ダル・フライ(パンジャブ)

・チキン・タリワラ(パンジャブ)

・マトン・ローガンジョシュ(ジャンムー・カシミール)

・リスタ(ジャンムー・カシミール)

・カシミール風サブジ(ジャンムー・カシミール)

・かぼちゃのタマリンドカレー(リシケシ)

・フィッシュ・タルカリ(オリッサ)

・パラック・ビーフ(西ベンガル)

・フィッシュヘッド・サグ・フライ(西ベンガル)

・チャナ・ジョル(西ベンガル)

・クラシックホームスタイルのホウレン草チキン

・モダンホームスタイルのホウレン草チキン

 

 

〇北インドの食卓 

冊子版 24p.フルカラー 500円(税込み)

今まで全くと言っていいほど語られてこなかった、ファストフード含むカレー以外の北インド料理をまとめた一冊です。

<コラム>

・モダンホームスタイル

・チャパティの捏ね方

・お気に入りの○○屋さん

・インドの中の外国人

・パスタ職人に聞く!パスタの美味しい茹で方

  (Bar U'Jadde 豊島園オーナーシェフ 明ヶ戸慎平氏、仏伊印料理人 星野大志氏)

・インド人のお茶文化 

 

<レシピ>

・アル・ジラ

・コフタカバブ

・エッグブルジ

・チャパティ

・スパイシートマトケチャップ

・チキンハンバーガー

・アルティッキ

・マサラフレンチフライ

・バナナポリッジ

・チャナマサラパスタ

・チキンキリエルスープ

・ターメリックミルク

・ブラックペッパーティー

・ミントティー

 

ビリヤニ回顧録④-ダンパウのルーツを考える

-ダンパウとは?

 ビリヤニがルーツであると言われる、ミャンマー仏教徒が食べる味ご飯+ヒンの形態をとるご飯もの料理の総称で、インドの料理と認識されているもの。ミャンマー人はみんなインドの料理とは言うが、添えられるヒンはミャンマーのスタイルに近い。またインドの料理と言う認識であり、そこにイスラム教徒の料理という意味も包含されていると思われるが、イスラム教徒の料理とは言われない。

 

-ダンパウという名称の由来

 ヒンディー語ウルドゥー語Dum PukhtもしくはDumpukht、もしくはペルシャ語Dampokhtが訛ってDanbaukとなったと言われている。

 

-ダンパウのバリエーション

 ミャンマー国内には大きく分けて4つのバリエーションが存在する。さらに実際にはそこから派生した亜種が複数存在すると思われる。

 

Ⅰ-ビルマ族およびモン族等、おもびビルマ族の文化圏やその周辺でビルマ族からの影響を強く受けている民族のダンパウ。ライスの部分がバスマティライスを用いたサフランライスで、サフランライスには玉ねぎ、グリーンピースカシューナッツが必須とされる。

 

Ⅱ-Ⅰから派生したもので、カチン族及びシャン族のダンパウで、中華料理の影響が見られるもの。ライスは炒飯のものと炊き込みご飯のものがある。米種はタイ米や地米が使用され、炊き込みご飯のものにはバスマティライスが使用されることがあり、オレンジのフードカラーとフライドオニオンを使ったインドっぽい見た目のものバリエーションが存在する。カシューナッツグリーンピースも使用されるが、必須ではなく米の味付けや具材の定義が地域や民族ごとに異なってくる。

 

Ⅲ-現在のマンダレーからヤンゴンの間にかけてみられる南アジアのチキンプラオ様のダンパウ。

このダンパウはルーツがBurmese-Indianという移民の人たちにありⅠ、Ⅱのダンパウとは名称は同じだが、

・グレイビーを伴うマサラを使用しない

・南アジアのいずれの地域においてもdumpukhtおよびそれに類する料理に分類されない

ため、直接の関係はない可能性がかなり高い。しかしながら、このタイプのダンパウが当時のBurmese-Indianたちに何と呼ばれていたのかははっきりと分かっていない。歴史的には恐らくBurmese-Indianの本格的な流入の方がミャンマーのダンパウの成立よりも後の可能性が高く、ミャンマー人がインド人の炊き込みご飯=ダンパウとネーミングしただけという可能性もそれなりにありそうだと思っている。

 

Ⅳ-南アジアのいずれかの地方のいずれかのコミュニティにルーツを持つロヒンギャのダムビリヤニ(ビラニ)。また、ロヒンギャのルーツの多様性からすると、ロヒンギャビリヤニ自体がそもそも一種類ではない可能性がかなり高い。グレイビーを用いるDumpukht Biryaniの類であり、現在のルーツのダンパウになった可能性が高い。

 

また、ダンパウの中でもお弁当スタイルのもので、米と米の間にヒンが挟み込まれて埋まっているような、一見するとダムビリヤニの様に見えるものがあるが、これはⅠとⅡのお弁当用の形態と考える。また、ミャンマー国内にも他にイスラム教徒がいないわけではなく、Ⅳのうちのいくつかが彼らの移動、離散と共にミャンマー国内中に散っている。

 

-ダンパウのルーツにまつわる謎と仮説

①近年のロヒンギャ問題で注目を浴びるようになったミャンマー人と仏教徒の対立だが、イスラム教徒と仏教徒はそれ以前にも度々揉めている。仏教徒の中にはイスラム教徒のことをよく思っていない人が多いと言われるが、もしそうであればなぜ下手をすれば敵対することになる民族の料理を受け継いでいるのか?

 

→これに関しては、本当にイスラム教徒の料理ではなくインドの料理と言う認識のためである可能性があるが、ではイスラム教徒という本来ならビリヤニと切り離せない存在のイスラム教徒の存在がなぜ彼らの中で欠落しているのかが分からない。ただビリヤニミャンマーに伝わった時には、仏教徒イスラム教徒が仲が良かった可能性があって、その後その歴史が忘れられ、ビリヤニがダンパウとして仏教徒のものになった時代以降に、二つの宗教勢力としての対立が始まったと考えることはできる。

 

 

②ダンパウはミャンマーのどこで成立したのか?

 

ビリヤニが成立した以降で見ると、イスラム教徒と仏教徒が接していたのはラカイン州で、そこにはアラカン王国があった。アラカン王国は1785年に滅亡するまでベンガル帝国およびムガル帝国と国境を接しており、仏教国ではあったがイスラム教の信仰には寛容だったようだ。アラカン王国は1785年にビルマのコンバウン朝の侵攻によって滅んだとなっている。この中でミャンマービリヤニが受け入れられる土壌があったのは、おそらくアラカン王国だろう。おそらくラカインのロヒンギャにはいずれかの時点でビリヤニが既に伝わっており、それがアラカン王国の中でイスラム教徒から仏教徒への手に渡った後現在の形に近いものになって、コンバウン朝の領土の拡大もしくはその後、ビルマが英領インド帝国に併合されたタイミングで、人とモノの流れに乗って現在のヤンゴンまで伝わった可能性がある。

 

 

ビルマ族のダンパウはなぜサフランの使用にこだわったのか?

 

→これに関してはなぜだか全くわからない。ミャンマーで穫れるわけでもない高価なサフランの使用が廃れることなく今の今まで使われてきているというのは、ビルマ人の嗜好にもそれが合ったからなのだろうが、しかしそれにしても他にサフランを使う料理が特に存在するわけでもないうえ、お隣のカチン族・シャン族はサフランを使用しなくなっているにもかかわらず(それには中華の文化との相性があったはずだが)、サフランの使用にこだわっているのだろうか。後に出てくるが、見た目のためであった可能性はあるが、判断の決め手になる情報は今のところない。

 

 

④なぜダム調理をしなくなったのか?

 

→カチン族・シャン族に関してはロヒンギャビリヤニからすれば孫なので、距離的にも文化的にも遠いので形が変わるのは仕方がないとなるが、ビルマ族サフランの使用にはこだわったがダム調理にはこだわらなかった。これはビリヤニの食べ物としての寿命の短さと、イスラム教徒と仏教徒の文化的な違いが関係しているかもしれない。イスラム教徒のコミュニティでは、国や地域、宗派によって多少の違いはあるが、料理は女性の仕事でそれにかなりの労力と時間を費やす。例えばイランでは、ほとんど一日中何かしら料理に関わることをやっていないと間に合わないような程の調理時間を要する料理がたくさんあって、しかしそれがイランの伝統料理であるし、例えばウイグルでは常に急な来客のための食事の確保をしておかなければならず、いつ何人来るかも、来るか来ないかも分からない来客の食事に気を遣う文化がある。他にもイスラムコミュニティの大変な台所事情の話は沢山あって、これらは古臭い感じもするが、現代でもそんなことがあるのだから昔はもっとそうだっただろう。しかしそれはアジア人女性の台所事情とはやはり違う。食べ物がいたみやすい高温多湿の環境で、冷蔵庫もないのにビリヤニを炊きっぱなしにすることなんかできず、いつでもビリヤニを食べようと思えば、やはり冷蔵庫なしでもある程度保存が効くように作った自分たちの伝統料理ヒンをビリヤニのグレイビーの代わりに用い、米だけその都度用意するようにすれば良いとなったのかもしれないし、マサラを作ってダム調理まで含めれば2時間も3時間もかかってしまうのだから、そんなに鍋につきっきりにはなれないというライフスタイルや価値観の違いもあっただろう。しかしなぜ、ビリヤニという名称ではなくdumpukhtの方を採用したのかは分からない。ダム調理しないのなら、ビリヤニと言った方がごまかしも聞きそうなものだが、もしかするとイスラム文化と接していた当時のラカインの中では手間暇を惜しみなくかけるイスラム教徒の食文化に一種のあこがれのようなものを仏教徒の人たちも持っていて、それゆえ名称ではなく調理法を指すdumpukhtを、一種の雰囲気出しのために料理名として採用したのかもしれない。

 

 

-ではそのロヒンギャビリヤニのルーツになったものは?

 

→これもよく分からないが、手掛かりになりそうな情報がいくつかある。

 

・ダンパウという名称

ダンパウがダンパウと呼ばれるようになるためにはロヒンギャビリヤニがまずDumpukht Biryaniという名称でなければならない。この名称はダムビリヤニ全てに用いられていたわけではない。例えばビリヤニが成立したとされるムガル帝国では、シャー・ジャハーンの時代のレシピ集にはzerbirynanという名称で載っておりダムのダの字もない。

Dumpukhtという響きはかなり古めかしくて、厳格なイメージを伴う調理法を含んだ意味合いのネーミングで、調腕利きのシェフがきちんと伝統的なスタイルで作ったダムビリヤニということが名前だけで相手に伝わる。つまり安易に使用できる名前ではなく、使うことには社会的な責任みたいなことが伴う、そんなネーミングだ。そしてDumpukht Biryaniという名称を採用して現在でもその名残が見られるのは当時のアワド(現在のラクナウ)とニザーム王国(現在のハイデラバード)だ。他の地域にもあるにはあるが、これに関してはレプリカ的なものが多い。余談だが、他に用いることができる名誉的な名称にはShahiという冠言葉がある。これは本当にただの冠言葉なのでShahi BiryaniだろうとShahi Daalだろうと各人が好きに用いることができ、定義も特にない。

ムガル帝国イスラム帝国であったが、アクバルの時代には様々な地域の様々な宗教の文化を取り入れ、それは食文化でもそうであった。しかしそれと対照的に、ムガル帝国から独立したニザーム王国はかなりガチガチのイスラム文化でそれは料理にも表れていると思う。ロヒンギャは現在でも保守的なイスラム教徒と言われているが、当時のニザーム王国やその周辺のイスラム教徒と、接触さえできればとても馴染みやすかったであろうということは想像できる。イスラム教徒である以上コーランを持ち、ある程度のアラビア語をみんな理解するので初見でも挨拶から始まってある程度の会話は可能だったケースが多くあるだろう。殆ど個人的な推測だが、あまり外れているとも思えない。 

アワド料理に関しては、ムガル帝国の流れを引きつつも、様々な地域の料理をまた独自で取り入れ、ダムの調理技術をムガル帝国のものよりさらに発展させた。それゆえにダムビリヤニはアワド料理の中の最高峰の一つに位置付けられる。また、アワドのビリヤニサフランで米を真っ黄色にするものも見受けられ、カシミールサフランプラオを介さずに、これが直接ロヒンギャに伝わり、ダンパウとなった可能性もある。ただ、アワドとアラカンの交流を示す資料があるのかないのかもまだ分からない状況なため、この線に関しては引き続きの調査が必要である。

 

 

ビルマ人がこだわるサフランライス

玉ねぎ、カシューナッツグリーンピース、バスマティライスで作られるサフランライスが、カシミールにある。もちろんインドでもあるが、インドで同様の料理はレストラン料理か宮廷料理に分類され、庶民はほとんど食べることがない。なぜならサフランが手に入りづらく高い上に、インド料理には馴染まないからだ。そんな馴染まないものに高いお金を払うくらいなら、米を買って腹を満たすのが人間だろう。ところがそれもサフランが比較的手に入りやすく、食文化にも親しみがあるカシミールでは事情が違い、貧しい人たち以外はそのサフランライスを食べる文化がある。現地ではサフランプラオということが多いが、これは北インドバングラデシュの人たちがよく食べるプラオのバリエーションの一つで、要するにカシミールではサフランに親しみがあるのでよく使うということだ。

当時のロヒンギャの人たちがどれくらい裕福な人たちがどれくらいいたのかなどはよく分かっていないが、ダンパウは別に金持ちが食べる料理と言わけでもないし、ビリヤニもまたイスラム教徒なら誰もが食べる料理だ。ロヒンギャから仏教徒へのダンパウの受け渡しは上層階級の間でも行われたかもしれないが、普通階級の人たちの間でも当然行われただろう。そして当時のロヒンギャの中に相当数いたであろう南アジアからの移民の中にカシミール人がいたとすれば、このサフランライスもラカインに伝わっただろうし、逆に庶民にサフランライスが伝わるためには、ロヒンギャのコミュニティの中に庶民でサフランライスを食べる文化を持つ人が必要で、庶民でサフランライスを食べる文化がある南アジア人はカシミール人が主だったところで、後は西アジアのイラン人となる。ただイラン人はカシューナッツをプラオに使うことは余りないので、消去法でカシミール人が残ることになる。

そして後にこの同時に存在したビリヤニサフランライスが、後のダンパウを構成したということなのだが、実はサフランでお米を真っ黄色にするビリヤニが非常に少ないということがある。これもまた理由は同じで、サフランが手に入りづらい上に高いからだ。今では輸入食材店でどこに行っても変えるサフランだが、当時に関しては全くそんなことはない。ダムビリヤニは白いお米と、グレイビーの黄色に茶色、それにサフランの色に、フードカラーだ。それらをダム調理の後に混ぜて初めてビリヤニのきれいな色になる。炊いた白米にヒンをかけただけでは余りにも見た目が貧相だが、本物のビリヤニは前述の通りあまりに大変なことが多いので、グレイビーはヒンにしつつサフランライスを別で採用して、今の形になった可能性はある。もちろんこの交流は庶民の間でも行われていただろうが、あまりにも一定のフォーマットとしてビルマ人の間にこのダンパウが残っているので、どこかのタイミングで格式のある誰かが、これを正式なフォーマットとして採用していたローカルな歴史があったりするのかもしれない。

 

 

・歴史的な出来事から考えて、ムガル帝国ベンガル帝国、現在のバングラデシュのスタイルのビリヤニがルーツではない

まずベンガル帝国は当時のラカイン州の一部を支配していたという話があり、おそらく領土内に一定数のロヒンギャもしくはロヒンギャのルーツとなった人たちを抱えており、また仏教徒の勢力と国境を接していた。一定の交流が双方であったであろうが、1576年にムガル帝国に吸収される形で滅亡している。おそらくベンガル帝国があった時代には、ビリヤニはあったかもしれないが、Dumphukutと名の付くビリヤニはまだ無かったと思われる。よって、ベンガル帝国ルーツというのは考えづらいだろう。

ムガル帝国とアラカン王国の関係は、正確なことがよく分からない。ただ、ベンガル帝国がラカイン州の一部を支配していたのだが、ムガル帝国の領土は最大でもそこから西へ少し後退して現在のチッタゴンまでだった(ラカインまで到達したという話もある)ようだ。チッタゴンは丘陵地帯となっており、陸路での移動はなかなか大変だったようで、その地形が影響して、現在でもチッタゴンの文化や言葉はダッカともラカインとも違う独特のものとなっている。ベンガル帝国時代に領土がラカインまで続いていたとすれば、チッタゴン経由のダッカ-ラカイン交易路のようなものがあったであろうが、ムガル帝国になってからは、その交易路も失われてしまったかのかもしれない。よって現在のラカイン州ロヒンギャにもムガル帝国との文化的なつながりを求められる可能性は余り高いと思えず、ダンパウという名称からも、ムガル帝国ルーツも完全に否定できるわけではないが他の可能性から探った方が良いだろうという位置づけである。

現在のバングラデシュビリヤニは、ロヒンギャビリヤニとは全く違う。これは純粋にダッカの文化がチッタゴンによって地形的に遮られているからである。また、現在のロヒンギャの中にはチッタゴンにルーツを持つ人もいるようだが、チッタゴンロヒンギャの文化もまた大きく違う。そしてなによりチッタゴンには、現在のロヒンギャが持っているようなダムビリヤニが文化的に存在していない。ビリヤニイスラム教徒の料理だが、イスラム教徒皆が食べるわけではない。別にコーランビリヤニの作り方が書いてあるわけではないからだ。

 

-まとめ

以上のことから、現在のミャンマーのダンパウのルーツになった料理はロヒンギャビリヤニである可能性が高く、そしてそのルーツは以下の三つの可能性にまとめることができると思われる。

 

①アワド(現ラクナウ)のDumpukht Biryani

②ハイデラバード(ニザーム王国成立以降のいずれかの時点)のDumphukut Biryani

カシミールサフランプラオとハイデラバードもしくはアワドのDumphukut Biryaniの合成

 

大分いいところまで迫れていると思うが、後はここからアワドとラカインの交流、カシミールからラカインへの移民の実績(勝手だがカシミール人はあまり外に出ないイメージがある)、ハイデラバードの歴代の王国とラカインの交流を探っていかなければならないが、なかなか困難を極めそうどころか、果たしてあるのだろうか、資料。そしてもちろんこれらのどれでもなかった可能性すらあるわけで(というかここまでもほぼ全部推論!)、そのうちここで述べたすべてのことをひっくり返す新説が登場するかもしれない。

 

※この話はミャンマーのダンパウのルーツになった、当時のロヒンギャのコミュニティの中に存在していたであろう、特定のビリヤニについての話で、ロヒンギャビリヤニ自体は複数のルーツを持ち、一つに絞ることはおそらくできないと思われる。

ビリヤニ回顧録③-ロヒンギャとサロンとロヒンギャのビリヤニのルーツ

ロヒンギャとは?>

 主にミャンマー西部のラカイン州にまとまった人口がいるイスラム少数民族の人たちのこと。

 

<サロンとは?>

 ロヒンギャの人たちが話すロヒンギャ語のなかで、おかずという意味合いで使われる言葉。

 

 

 ロヒンギャの人たちが、現在の東南アジアのビリヤニシーンの形成にかなり重要な役割を果たしてきた可能性が高いということは、先日の私のフェイスブックの投稿でちらりと述べ、またビリヤニ2割でも一定のページ数を割いて解説することでもある。今回のブログでは、ビリヤニ2割では本旨から外れてしまったり、ページ数の関係で書ききれなかったり、結局結論が得られずに散らかりきって終わってしまった考察などをまとめる。これはビリヤニ2割のネタバレではなく、どちらかというと補足的な内容なので、こちらの記事から読まれても、ロヒンギャについてはある程度知識があるという方は、本を読んでから更なる盛り上がりを求めてこちらの記事を読まれても、どちらでもよいと思う。

 また、本記事とビリヤニ2割で私が述べることは、史実と私の体験と、私が得た証言と、それらから得られる考察なので、全て確定された真実とは言い難いし、ロヒンギャの人たちの中でも、当てはまる人と当てはまらない人がいることと思う。

 

ロヒンギャのルーツ>

 現在のロヒンギャの人たちのルーツは単一ではなく、東南アジアや南アジア、西アジア、ことによるとアフリカにまで辿ることができる可能性があるが、もはやどの家族がどこの由来なのかを探ることは容易ではなく、またそれ自体は今回の企画の目的でもないので、「かなりの時間をかけて形成された、かなり広範なルーツを持つ人々のコミュニティがロヒンギャと呼べるであろう」という程度のふんわりした纏め方にしておく。

 現在のラカイン州には7世紀頃にイスラム教徒伝わったという記録が残っているようであり、そのイスラム教徒たちを中心に現在のコミュニティが形成されているようである。ただ、イスラム教徒そのものが入植してきたのか、もともとそこにいた人たちが改宗したのか、多分どっちの流れもあったでであろうが、ではそれは割合的にはどっちがどれくらいだったのかはよく分からない。また、現在のラカイン州にもともと住んでいた民族がどの民族だったのかも、明らかになっていないようである。

 

ラカイン州の歴史>

 現在のラカイン州は随分古くからの歴史の流れの記録が現地に残っているようである。これに関しては、ネット上ですぐに見つけることができるので特に触れない。基本的には代々イスラム教徒以外の人たちによってその地に王国が築かれ、統治されてきたということであるが、それが14世紀から流れが少し変わってくる。

 14~16世紀にかけてベンガル王国、そして17世紀中頃にベンガル王国を吸収する形でムガル帝国が現在のラカイン州を(恐らく全土ではないが)領土とした。ベンガル帝国の後は統治はイギリス領インド帝国に引き継がれ、19世紀中頃にラカインはミャンマーへと帰属した。

 ベンガル王国とムガル帝国はスルタンが治めるばりばりのイスラム教の国だったため、その時代にイスラム教徒の移民が現在のラカイン州に増え、イスラム教徒は勢力を拡大していったという話である。

 

ベンガル王国時代>

 この時代、ベンガル王国はかなり豊かな国だったようで、ラカイン州の西、バングラ南東のチッタゴンに今風に言うとトレードハブとも言える港を持っていたらしい。貿易の相手国としてはとても魅力的な国として世界から見られ、そこに様々な移民が集まってきたという。ベンガル王国は外界との貿易にもかなり積極的だったらしく、南アジアだけでなくアフリカや中国とも関係を築いたようだ。後に統治はムガル帝国に引き継がれることになるが、これによってさらにムガル帝国ルーツのイスラム教徒(入ってきたのはイスラム教徒だけではないが)が現在のチッタゴンラカイン州に入ってくることとなった。また、これに関しては具体的な名称が分からなかったが、当時はイスラム教徒が移住、定住しやすくするための何か仕組みがあったようである。

 

<サロン>

 私は、ミャンマーのダンパウのルーツはロヒンギャビリヤニに求められる可能性が高いということを考えたが、前述の通りロヒンギャの人たちのルーツは多様を極めている可能性が高い。なのでロヒンギャの人たちの今のビリヤニのルーツになったビリヤニはどこの地域のもの(ビリヤニイスラム教徒の料理と言えるが、別にコーランに作り方が書いてあるわけではないので、ビリヤニが東南アジアに存在するためにはどこかから物理的に伝わって来なければならない)か、というのを考えるのはもはや彼らの家に行って直接訪ねるしかない。しかし現状はなかなかそれが難しい。ということで、どうにか日本からそれを探れないかと思い、彼らの言葉の面からそれを探ってみることにした。

 ロヒンギャ語ではおかずのことをサロンと呼ぶ。私は、この単語は南アジアで使われているサランが語源と考えて差し支えないと思っている。しかしサランという単語を使う地域だけでも相当な数があるので、また彼らのルーツも多様であることまで考えれば、必ずしもサランと彼らのビリヤニの出所が同じであるとも言えない。なんならサロンという言葉すら全ロヒンギャ共通でない可能性もあるし、ロヒンギャに伝わっているビリヤニも一つでない可能性の方が高いだろう。しかし符合する部分もあって、サロンという言葉は主にイスラム教徒が南アジアでも使っているが、ビリヤニもまたイスラム教徒の料理だ。そして隣国のバングラデシュではビリヤニはあるが、ベンガル語ではおかずはサロンではなくトルカリという。そしてロヒンギャビリヤニバングラデシュビリヤニは明らかに違う。よって同じイスラム教徒のコミュニティを抱え、かなり近い地域ではあるが、ロヒンギャビリヤニバングラデシュルーツではない可能性がかなり高いということが言える。この考察を繰り返すことで、ロヒンギャビリヤニのルーツをある程度まで絞ることが可能になるかもしれない。

 

ロヒンギャ語の語彙>

 ロヒンギャ語は、インドのいろいろな言葉やベンガル語と同じく、インドヨーロッパ語族に属す。その中でも近いのがバングラデシュチッタゴンで話されるチッタゴン語ということだ。ただ、ヒンディー語ベンガル語とも言語的な距離は近く、近い言葉はある程度近い特徴を有し、語彙の共有も多くなる。語順はインドやバングラデシュの多くの言葉と共通でS-V-O形が基本で、これは日本語とも同じだ。

 語彙に関してはロヒンギャ語の絵付の辞書を見てみるとAmm(マンゴー)、Andha(たまご)、Anggur(ぶどう)とa頭文字の単語を見ただけでヒンディー語ベンガル語と語彙を共有していることが見て取れる(言語的な距離からするとチッタゴン語に同様の単語がまずある場合は、チッタゴン語との共有と言った方が良いが、私がチッタゴン語を知らないのですみません)。ロヒンギャのルーツが多様なうえ、長い時間をかけて成立したのが今のロヒンギャのコミュニティであるとしたら、ロヒンギャ語も標準語と、なんらかの方法によるグルーピングが可能な方言群が存在している可能性があり、どの方言かでどの外国語からの借用語の割合が多いとか少ないとかも、もしかしたらあるのかもしれないがそこまでは分からない。

 

<サランという単語を使用する地域>

 まずロヒンギャ語のサロンは、南アジアでイスラム教徒が使うサランという単語の変化形と考えてほぼ間違いないと思う。ではその原型となったサラン(saalan)は、何語がルーツなのかと思い、ヒンディー語辞典を引いてみると、意外にもヒンディー語だった。ウルドゥー語がルーツであったならば話は大分分かりやすかったのだが、そうはいかなかった。ヒンディー語ウルドゥー語の距離感は、言語学的には方言程度の違いと言われる。お互いに話が通じるので日本語と韓国語よりも関係は近いだろう。しかし、心理的な距離となると話は別で、これは人にもよるが北インドヒンドゥー教徒の中には、方言程度以上の心理的距離を感じている人もいる。「それはウルドゥー語だから私たちは使わない」という感じで、単語や言い回しではっきりと区別するのだ。

 このことはヒンドゥー教イスラム教の発想の違いから来ている可能性があって、二つの宗教は食べ物も違うので、その微妙な感覚の違いが使用する単語に現れている可能性はある。つまりサランはヒンディー語ではあるが、ウルドゥー語でも使われていて、イスラム教徒は使うが、ヒンドゥー教徒は使わないと言った感じだ。

 現にサランはインドのハイデラバード料理、パキスタン料理にはよく登場するが、ヒンドゥー教徒ベジタリアン料理にはことごとく登場しない。しかし二つの宗教はそんなに食べもの違うのかというと、全く同じものもよく食べる。同じ地域に住んでいればなおさらそうだ。そんなわけで、次は南アジアでもどの地域でサランという単語が用いられているのかをもう少し詳しく調べてみた。

 

<南アジア人の間で紛糾する議論>

 調べて分かったのは、南アジア人の間でも統一の見解はないということだった。いや、普通に考えれば多様性と書いてインドと読む、みたいなあの地域で皆が一定の見解を持つことなどあり得ないのだが、予想以上に散らかっていて、結局得たい結論は得られなかった。

 まず、サランはやはりイスラム教徒がよく使っているというのは間違いなさそうだ。また、南アジア以外にもサウジアラビア等の湾岸諸国では使用する人もいるという。ただ、南アジア以外ではあまり使用される単語ではないようである。また、ペルシャ語でもサランという単語は使用されない。

 

<おかずを指す語群>

 今度は、インド各地域でおかずの様な意味合いで使われる単語を調べてみた。主にヒンドゥー教徒が使用する言葉である。まずパンジャブ地方ではタリという言葉があり、チキンタリワラなど汁気の強いカレー料理を特にタリワラという。ワラは~を伴ったという意味で、タリワラで汁気を伴ったという意味になる。つまり、タリとは汁だ。

 これに近い言葉としては、北インドからバングラデシュにかけてジョルがある。ジョルも汁ものだ。西インドにはラッサやラスという単語があって、これはジュースや汁という意味になる。もしかして南インドのラッサムも同じ語源かもしれない。これら全てはおかずというニュアンスで用いられることは多いが、その前に汁物という意味合いが勝る。つまり”おかず”というより広範な単語に包含される、おかずの一つの形態と言える。つまり概念としては”サロン”と同じレベルの単語ではない。しかしここに来て一つ思ったのは、ロヒンギャ語のサロンはおかずという概念を表す言葉であったが、その語源となったサランは何か特定の料理群を指す、おかずという単語に包含される位置の単語であったかもしれない。

 

<サランが指す料理>

 サランはインドではグレイビーを伴ったカレー料理の総称という言い方をされるが、これに近い言葉がタルカリだ。バングラデシュではトルカリと発音される。ただタルカリはグレイビーを伴ったものからドライの汁気の無いものまで全て含むことができる。しかしながら、南アジアでサランと言えば全てグレイビーを伴い、汁気の無いものは私が知る限りではあるがないし、私の知り合いのイスラム教徒の人たちは汁気の無いものを指してサランと言うのかというと、主観ではあるが言いそうにはない。ではイスラム教徒の人たちがインドのドライサブジのようなものを食べないのかというと、確かに汁気の多いものが食卓に上る割合は、ヒンドゥー教徒に比べて多い気がする。もしかするとその頻度のせいでサランはおかずという意味ではあるが、汁気の無いものを指さないのかもしれない。バングラデシュイスラム教徒は汁気の無い総菜をかなり良く食べるが、彼らはそれらをトルカリには含めないことが多い。バングラデシュでトルカリというとグレイビーを伴ったものが一般的で、これはサランという言葉の代用としてトルカリを使っているということなのかもしれない。

 他にイスラム教徒がよく食べる料理としてはショルバとヤクニーがあるが、ヤクニーは言ってしまえばスープで、ショルバはそれよりはもう少し腹にたまる食べでのある料理と言う印象だ。そして二つはサランではない。しかし、ショルバやヤクニーは少しの付け合わせ(ライタやサラダ、ドライサブジ)とナンやライスで食事を構成することができるため定食とはならない。つまりおかずを伴わないと考えれば、次元は多少違うもののサランとショルバ、ヤクニーが同時に存在することは矛盾しないので、サランがおかずという概念後語いう考えはまだこの時点では成立する。

 

<塩>

 サランはヒンディー語で塩をした、もしくは塩をした料理と言う意味のサロナーという単語がルーツという指摘もある。ここから辿れる考えは、塩をした食事のメインディッシュになり得るものがサランと呼ばれ出したという可能性だ。調べてみるとハイデラバードやいくつかの南インドの地域にチキンサロナーという料理があり、英訳としてSalted Chickenと書かれている。見た目的にも汁気があり、これは確かにサランと呼べる。しかし疑問なのは、ハイデラバードには伝統的にたくさんのサランと呼ばれる料理があり、それが今でも存在しているのに、なぜサロナーという別のジャンルとも言える料理が存在しているのかということだ。考えられる可能性としては、チキンのサラン(Murgh ka Salan)というチキンのおかずの中に、チキンサロナー(Chicken Salonaa: Salted Chicken)が存在しているということだ。これは矛盾しないが、しかしこれだけではサラン・サロナールーツ説は否定できそうにない。

 そもそも塩は他の言葉では何というのだろうか。インド・ヨーロッパ語族というかなり幅広い言葉の中でそれを探っていると、なんとアイルランド語ではsalannと書きサランと読むということが出てきた。さすがに遠すぎてサラン・アイルランド語起源説というのは無茶苦茶だが、しかしsaltedという意味合いを特定の似通った音韻でインド・ヨーロッパ語族の幅広い言語が共有している可能性はあるし、むしろ同じ語族に属しているということはそこは否定できない。つまりサランのルーツがサロナーかどうかは分からないが、サロナーは印欧祖語にルーツを持つという可能性はある。

 ではヒンディー語で塩は何て言うのかというと、ナマクだ。これはウルドゥー語も共通で、ペルシャ語がルーツだ。サンスクリット語ではラワン(もしくはラヴァン、ラワナ等)と言ったようだが、サンスクリット語には塩を指す単語が存在しないとかいう話も出て来て、私はサンスクリット語は分からないのでこれ以上追うのは止めた。ヒンディー語が塩という単語をサンスクリット語からではなくペルシャ語から拝借しているから、これ以上そこを追っても仕方がない。

 南インドタミル語テルグ語マラヤラム語では塩はウップという。南インドにはウップカリという料理もあり、これも意味的にはsalted meatもしくはsalted dishと解釈できる。ただどちらかというと汁気はなく、マサラフライの様なドライ系の料理が多いグループだ。しかしこれは地域によっては汁気のあるソルナーと混じり、汁気のあるウップカリも存在している。あとウップサールという料理も南インドにはあって、これはものによってはジョルのようにかなり汁っぽい見た目をしているが、肉を使った少し濃いめのサールもある。サールはsarruと書き、salanとの単語上の関係をうっすら連想させるがそれを裏付ける根拠はない。ただ、サールの位置づけとしてはおかずの位置に非常に近く、イスラム教徒に例えばチキンのサールを「ヒンドゥー教徒のサランですよ」と言って見せればおそらく納得する人は多いだろう。ただ、汁気があまりに強ければこれはショルバだよと言われると思う。

 もし、サールとサランが関係する単語であれば、塩を表すウップと共に使用されるサールが塩を意味しないように、サランも塩に関連する単語ではないと言える。しかし、今のところサールとサランを結びつけるものは、なんとなく方言の違いとも見えるアルファベットの並びと、ともにおかずを指していそうな単語であるという限りで、なんとなく根拠には弱い。しかしここでサールのルーツを調べてみると、ラッサムと同じくサンスクリット語のラサであり、先に出てきた西インドのラスやラッサと同じルーツであるということだった。ラッサムというとおよそおかずを指す単語ではないが、しかしラッサやラス、サールよりはある特定の料理を指すので、そういう意味ではラッサやラス、サールの概念はまだおかず寄りでタルカリと同じような次元の単語という考え方もできる。そして仮にサールとサランが関係がある単語同士であれば、サランのルーツもまたサンスクリット語のラサであり、本来の意味合いは汁となる。

 

<食事の形態>

 ミールスやターリ等の全てのおかずをおぼんに一緒盛りにして食べるスタイルを基本とする食事のスタイルはそれぞれの料理がそれぞれの呼称で呼ばれ始め、米やパンの主食に好きな料理をくっつけて食べるスタイルはおかずという概念語が必要になってくるとも考えられる。後者の食事スタイルでもターリに全てを一緒盛にすることができるが、それぞれをそれぞれのお皿に盛ることができる。一方ミールスやターリは各要素の分離ができない。ターリやミールスはインドのヒンドゥー教徒のスタイルということもでき、イスラム教徒のコミュニティーで目立つ食事のとり方は全ての料理が別々に運ばれてくるスタイルだ。バングラデシュに関してはそのどちらもあり、大勢で食事をする場合は結果ターリのスタイルになるが、盛りつけられる前は大皿でテーブルの上に置いてあったりする。つまりヒンドゥー教徒の食事スタイルではおかずという概念が特になく、全ての料理がだいたい同じ位置づけ(実際にはメインディッシュとサイドディッシュの考え方があって違うが)、イスラム教徒の食事スタイルではおかずという幅広い料理を指す概念語とショルバやヤクニーという料理を指す言葉が並列していくつか存在するという考え方ができる。もしかしたらショルバやヤクニーもサラン同様に特定の料理群をそれぞれに包含する概念語であるかもしれない。

 

<強引にまとめ>

 ロヒンギャ語でサロンはおかずという概念を指す単語として用いられている。そしてその語源となったサランもおそらくそうと考えられる。サランは”塩をした”というヒンディー語のソルナーに起源をもつという指摘もあるが、サンスクリット語起源ともまあ考えられなくはない。しかしなぜサランという単語がイスラム文化に起源をもつ単語ではないのかというのは謎である。結局、サロンとロヒンギャビリヤニのルーツが同じなのか違うのか、そしてどこから来たのかということを探る調査は一歩も進展しなかった。